躍進するテックカンパニーのリーダーに、エンジニア採用や組織づくりの秘訣を聞く『TECH TEAM BUILDERS』。第11回のゲストは、株式会社サイカで執行役員CTOを務める是澤太志氏と、エンジニア専門人事・採用部門「DevHR」のマネージャーである渡邊優太氏のお2人です。
同社が提供する、マーケティングのPDCA全てにデータサイエンスを実装することで、マーケティング施策のROIを最大化するソリューション「ADVA(アドバ)」に携わるサイカのエンジニアたちは、どのような考えに基づいて採用され、開発にあたっているのでしょうか。お2人に話を聞きました。
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優秀なエンジニアを採用するコツを公開
自社にマッチした優秀なエンジニアにアプローチできていますか?
開発に馴染みのない採用担当者や経営者にとって、エンジニア採用の要件を正しく設定することは容易ではありません。
そこで、優秀なエンジニアを採用するために押さえておきたいポイントを、1つの資料にまとめました。
専門知識を持たない採用担当者の方にも簡単に理解できる内容になっていますので、ぜひご覧ください。
株式会社サイカ
執行役員 CTO
是澤太志氏
2000年にITエンジニアとしてのキャリアをスタートして以来、トーセ、シーエーモバイル、ALBERT、Speee、メルカリなど12社でテックリードやCTO、VPoEを務めた。2020年1月よりサイカに参画、同時にCTOに就任。また、合同会社クロスガレージのCEOとして複数社の技術・組織・プロダクトの顧問なども務める。
https://www.wantedly.com/id/futoshi_koresawa
株式会社サイカ
開発本部 DevHRマネージャー
渡邊優太氏1989年、兵庫県出身。大阪大学大学院工学研究科修了後、2013年に新卒でSpeeeに入社。Webコンサルティング、新卒採用、開発職採用、広報、組織開発、新規事業開発のPMなど、幅広い業務を経験する。2020年8月にDevHRマネージャーとしてサイカに入社。現在は開発組織の体制づくりや組織文化の醸成を主導している。https://www.wantedly.com/id/yuta_watanabe_1
人事とエンジニアの協力が不可欠と痛感した前職時代
——本日はよろしくお願いいたします。早速ですがお2人の役割について教えていただけますか?
是澤氏(以下、敬称略) プロダクト開発を担う開発本部の責任者を担っています。CTOという肩書きがついていますが、組織の移行期ということもあり、複数の役割を兼務しているので、実質的には「技術管掌役員」と言ったほうがイメージに近いかも知れません。いわゆるCTOという肩書きから連想される開発組織の長としての役割、たとえば技術戦略や技術選定などに必要な意思決定に関しては、CTO Officeというチームで行っており、そのチームのマネージャが中心として活躍してくれています。
渡邊氏(以下、敬称略) 私の役割は大きくわけて3つあります。1つはエンジニアやPMなど、開発本部の採用と育成に特化した人事チーム「DevHR」の責任者。2つ目が全社を対象としたエンプロイーエクスペリエンス(従業員満足度)向上を担う人事マネージャーとしての仕事。3つ目が、開発組織横断の課題やプロジェクトを担当するチーム「VPoEオフィス」の責任者として、開発組織の持続的な成長を支援するプロジェクトなども担当しています。
——お2人はサイカにご入社される前、同じ会社にいらしたこともあるそうですね?
是澤 はい。Speeeという会社で僕がエンジニア側の責任者、渡邊がエンジニア採用の人事担当という間柄でした。彼と一緒に開発組織を大きくした経験を通じ、人事担当者とエンジニアがタッグを組むことの重要性を強く感じたので、転職活動中だった彼に声を掛けて入社してもらいました。当時の成功体験をサイカでも再現したかったんです。
渡邊 私が入ったのは2020年8月。同じ年の1月に入社した是澤が中心となって開発本部のビジョン策定や評価制度の整備、現在の組織体制に移行した直後のことでした。前職時代、人事を経験した後、3年ほどPMとしてプロダクト開発を行っていました。そのとき一緒にプロダクト開発に携わっていたエンジニアがいま、サイカでテックリードを務めている縁もあって、サイカに転職しました。
PMFを機に数々の組織改革を断行
——是澤さんが入社された前と後では、開発本部のあり方が大きく変わったと聞きました。なぜ変える必要があったのでしょうか?
是澤 実はサイカに入社する2年ほど前から、技術顧問として経営陣やエンジニアチームと接点を持っていたのですが、事業の潮目が大きく変わったのは2019年ごろ。サイカのプロダクトである、XICA magellan(2020年9月、「ADVA MAGELLAN」に改称)」がPMF(Product Market Fit)してマーケットに受け入れられてきました。そして、ここからプロダクトをさらに大きく成長させるには、エンジニアの視座やスキルを上げ、開発体制のあり方を変えギアをさらに上げられる状態にしなければなりません。
当時、僕はメルカリを退職することを決めていたこともあって、サイカの代表の平尾喜昭から「ぜひ一緒にエンジニア組織を強くし、プロダクトが強い企業にしていきたい」と話をされ、ジョインしたのが2020年1月のこと。入社して3ヵ月で、開発本部が目指すべき「モノづくりビジョン」を定め、そのビジョンに従った、エンジニア独自の評価制度やDevHRの新設、開発プロセスの見直しなどを駆け足で進めてきました。
——エンジニア採用には、どのような変化があったのですか?
是澤 採用目標を追いかけるようなやり方は止め、組織のコアとなるエンジニアを時間をかけてでも確実に採用していく方針に変えました。同時に、いま開発に必要な技術力や経験をお持ちのエンジニアであれば、場所や働き方を問わず、業務委託や副業でも構わないという方針に改め、成果にフォーカスをあてた開発チームづくりをしていきました。
この1年、とりわけ注力していたのは「強い組織をつくる仕組みをつくる」こと。新設した技術アドバイザリーボードでは、メルカリの名村卓さんや田中慎司さん、米国Googleの池田俊さん、OSSコミッターとして知られるSpeeeの村田賢太さんに加わっていただき、エンジニア組織全体の目線を上げ、業界水準で強い個人、強い組織、強いプロダクトをつくるための仕組みのひとつとなっています。
——エンジニアの選考基準は、どのように変わったのでしょうか?
是澤 選考基準に関しては、「自分たちより何か1点でも強みを持った人材を採用する」ことを大事にしています。これまで苦労してつくり上げてきたプロダクトを100とすると、その方の強みで1,000、10,000、それ以上に引き上げてくれることを期待しています。
渡邊 私たちDevHRの使命は、先ほど是澤が申し上げたモノづくりビジョン「Refine your choice and make it the Best(自らの選択に磨きをかけ最高なものにする)」を体現する開発組織をつくることにあります。求めているのは、状況を打開できる能力と意思、そして野心があり、発展途上の開発組織について一緒に議論できる方。それは雇用形態に関わらず強く求めているポイントです。こういう方々に求めるスキル、経験をさらに細かく言語化して、募集やダイレクトスカウト、採用広報を行っています。
とくにWantedlyは、「才能開花に満ちた公正な世界をつくる」というビジョン、「データ分析を民主化し、マーケティングの適正評価を民主化する」というミッションのもとで、サイカのエンジニアがどのような取り組みを行っているか、具体的に伝える目的で活用しています。
是澤 採用ハードルは高くなってしまいますが、スキルが高いだけではなく、サイカのMVV(Vision/Mission/Value)に共感してくれて、いまのフェイズのサイカにフィットしてくれるか、という視点は大事にしています。プロフェッショナルであると同時に、開発本部のメンバーが一緒に働きたいと思う人の採用を基準にもしているため、自ずと採用数も絞られてくるわけです。とくにこれからは、昨年立ち上げた開発基盤、組織基盤を磨き上げていく段階に入ります。いま開発に関わってくれている人材にさらなる成長機会を提供し、次世代を担うリーダー、マネージャーに育てる重要な局面なので、採用に妥協してはいけないと思っています。
大胆な挑戦とフェアな評価。それが才能開花の「一丁目一番地」
——現在、御社ではどのような開発体制でプロダクトづくりに臨んでいらっしゃるのでしょうか?
是澤 開発本部全体では、僕と渡邊を含め30名弱のメンバーが在籍しており、エンジニア14名、3名のPMという陣容でプロダクト開発に取り組んでいます。業務委託の方の比率は半分ほど。正社員や業務委託といった働き方で、お渡しする情報に差を付けたり処遇を変えたりすることはしていません。実際、業務委託エンジニアの方に開発チームをまとめてもらうなど責任あるポジションをお任せしているケースもあるので、その点はご本人の能力や活躍機会も意識しながらフラットに対応しています。
——それぞれ優秀な能力をお持ちの方々を束ね、能力を発揮してもらうために大切にしていることはありますか?
渡邊 採用に妥協しないこと、そしてもう1つ大事なのは、評価をフェアに行うことですね。サイカでは、全社、部門、所属するチームの目標と、個人が出すべき成果を紐付けて定義するOKR(Objectives and Key Results)という目標管理手法を採用しています。目標設定と評価は分けており、大胆な目標を掲げ、はやく遠くに行くためのチャレンジを肯定し、その過程で生まれた成果をフェアに評価する。マネージャーはメンバーがためらわずに全速力で自走できるよう、日々のコミュニケーションを通して支援し、得られた成果を適切に評価する。これがサイカが掲げる才能開花の「一丁目一番地」だと思います。
是澤 成果を出せば出すほど、制約から自由になれるという原理原則も大事なポイントでしょう。成果を継続的に出し続けていれば立場が上がるぶん、自ずと会社から委ねられる課題の抽象度は増し、それに準じて責任も重くなっていきます。グレードが高く、自らで考えて行動し成果を出せる人には、細かい指示を与えたり、ルールで縛り付けたりする必要はありません。時間も場所も問わない働き方をはじめ、前例のない取り組みやアプローチであってもチャレンジさせることを強く意識しています。足かせが外れることで、さらに大きな成果を残してくれるかも知れないという期待も込めています。
渡邊 3年も経てば、社会も技術トレンドも大きく変わります。組織や個人に求められる役割も変わってしかるべきです。職責や担当領域を抱え込まずどんどんメンバーに委譲し、新しい領域にチャレンジできる流れをつくるのも重要だと思っています。破壊的創造を自ら起こしていける組織をつくれれば、日常的にチャレンジを楽しめる強い開発チームになると思っていますし、それを実現するプロセスもワクワクします。
是澤 僕自身も入社当初から3年以内にCTOを後進に譲るつもりで、採用と組織づくりを行ってきました。理想的なのは、常にチャレンジし失敗と成功の体験から学び、能力を高め合う人たちがチームで取り組む。そして、新たな仮説検証や社会実験をしていきながら成果により影響力を強めていける組織。僕も渡邊もそうした自律的なチームをつくるというチャレンジと向き合っているんです。
渡邊 これまではトップダウンで改革、改善を進めてきましたが、すでに開発基盤、組織基盤はある程度形になってきたので、次のフェーズは、皆でワイワイ言いながらサイカの新しい開発文化をつくっていく段階に入ります。思想を下地に従来の仕組みや構造を磨き上げつつ、必要に応じて壊すことも恐れない動きを取りたいと思っています。
「ボトムに合わせるな、トップに合わせろ」
——この記事を読まれる方の多くは、これから組織の課題を乗り越えていくスタートアップやベンチャーのみなさんです。採用に困っている、組織づくりで悩んでいる皆さんにアドバイスをお願いします。
是澤 かつてヤフーの開発部長やクックパッドの技術部長として活躍し、Speee時代の顧問でもあるビットジャーニーの井原正博さんに「ボトムに合わせるな、トップに合わせろ」と言われたことがあります。つまり、採用はもちろん、制度や組織づくりも、現状や組織の下限に合わせるのではなく、トップを伸ばすことや理想を見据えて行うべきだということです。
採用した優秀な人材がのびのびと働き、自律して成果を出せる環境をつくるためにも、まずはプロダクトで稼ぐことが先決。そして、PMFが見えたらギアを変える。苦しい時期を乗り越えたら、次のフェーズに登るべきタイミングが必ず訪れます。そのときに視座・視点を上げ、既存の延長線上にないアクションに変化させていくことが大事です。そのタイミングで開発組織のビジョンや開発計画、人員計画などの各種計画、評価や福利厚生などの各種制度を作り直す、もしくは作り出すとよいかもしれません。
——渡邉さんはいかがですか?
渡邊 前職時代、人事とPMを経験してわかったのは、プロダクトづくりと組織づくりはとてもよく似ているということでした。どちらも終わりはなく、まずは粗く大枠をつくり仮説検証を繰り返して理想系を目指していく。実際、世界中のテックカンパニーが実践する開発手法やユーザー体験設計のノウハウや考え方を、採用候補者や開発組織などの人事施策として適用してみるのはかなりオススメです。
たとえば、カジュアル面談も候補者の体験を意識して設計しています。小さなことかもしれませんが、カジュアル面談中にBGMを流して、柔らかな雰囲気を演出してみたり、面談が終わった後にアンケートに協力いただき、どんな印象を持たれたかフィードバックをいただくなど。顧客の声を聞きながらより良くするための試みは日常的に行っています。どれもプロダクトを改善する過程でよく採られる手法ですよね。エンジニアやPMと協力しつつ、プロダクトをつくるようなプロセスで採用や組織をデザインできるとより良いものに繋がると思います。
——現在のお立場で、今後どのようなことに注力していきたいと思っていますか?
渡邊 エンジニアの採用マーケットは常に売り手市場。優秀なエンジニアはどこも引く手あまたです。今後はすでに経験値が高く、実力が顕在化している人材だけでなく、新卒を含めた若手の才能を社会に芽吹かせることも注力したいと思っています。まだ誰も気づいていない「原石」を見つける採用と、その原石を才能開花させる仕組みを通じて、いまよりもっと強い開発組織をつくっていきたいですね。
是澤 モノづくりに携わる人たちをリスペクトし共感しているからこそ出来る採用や組織づくりがあると思っています。渡邊もどこかのタイミングで、DevHRのマネージャーをだれかに引き継ぎ、PMとしてプロダクトづくりに携わりたいという目標を持っています。こうしたチャレンジが転職せずとも実現出来る環境を整えていくことも、僕たちにとって大事な仕事です。
渡邊 そう出来たら個人的にもうれしいですね(笑)。サイカは大胆なチャレンジを見据えた地盤が少しずつ整い始めたタイミングです。事業としても会社としても、まだまだやるべきことがたくさん残されています。登るべき山、採るべきルートを全員で共有しながら、お客様やマーケットに対して価値提供できるプロダクトを生み出し続けていかなければなりません。そのためにも、Wantedlyをはじめ、さまざまな採用プラットフォームやメディアを通じて、サイカの可能性を知っていただく機会をつくっていきたいと思います。
>「2021年4月に発表したプロダクトロードマップ。登るべき山とプロダクトに込めた情熱を共有するため、ビジュアライゼーションという手法に挑戦した」
是澤 サイカは「データ分析を民主化し、マーケティングの適正評価を民主化する」というミッションを掲げたマーケティング業界の当たり前を壊していく会社。そのためには仕組みを変えるプロダクトを生み出すエンジニアを中心としたモノづくり組織が基盤の一つになるのは間違いありません。事業理解、顧客理解に長けたエンジニアをいかに獲得し育てていくかは、どれだけ組織の規模が大きくなっても、常に向き合い続けていかねばならないテーマなのだと思います。渡邊の言う通り試行錯誤と破壊的創造を繰り返す自律的な開発組織をいちはやく形にし、次のチャレンジ向かえるよう、僕たち自身も成長したいと思っています。
<是澤氏・渡邊氏推奨。 シード期、アーリー期の技術責任者にお勧めする情報源>
『経営者の条件』ドラッカー(著)
組織をつくる上でマネジメントとして大切なことがまとめられた一冊。強みを生かして成果をあげ、成功をしていくためにまずこの書籍から読んでみることをお勧めします。
『岩田さん: 岩田聡はこんなことを話していた。』ほぼ日刊イトイ新聞 (著)
WiiやSwitchというプロダクトで任天堂に新たな成功をもたらした岩田さんから、プロダクトづくりへのヒントや勇気がもらえる一冊。岩田さんの哲学や想いの籠ったことばからモノづくりに対する考えも深まっていくでしょう。
『蒼天航路』王欣太 (著), 李學仁 (著)
三國志正史の曹操を主人公にした青年漫画で、乱世にスタートアップを始め世の中にイノベーションを生み出していくような生きざまを描いた一冊。時代の当たり前を変え、大きな変化と成果を生み出してきた人物を知ることが、強烈な刺激となるでしょう。
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