スタートアップはプロダクトを生み育てるなかで、事業を取り巻く関係が複雑化していきます。その時、トップが強い推進力をもつだけではなく、メンバー間の信頼関係を醸成しながら、強い組織をつくらなければなりません。そのためには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。
『NEXT UNICORN RECRUITING』では、世間から注目されるスタートアップにインタビューを行い、各フェーズの戦略や取り組みを紹介しています。第7回目となる今回、お話を伺うのは207株式会社の代表取締役である高柳 慎也氏。
207では「いつでもどこでもモノがトドク世界を創る」というビジョンのもと、アナログで非効率な業務がまん延する「物流のラストワンマイル(配達業者と荷物を受け取る消費者を結ぶ最後の区間)」の変革を目指すサービスを開発・提供しています。2018年に創業した同社では、サービスの成長に合わせて、組織の在り方も変化しました。その変遷を高柳氏に伺います。
スタートアップの最適な採用方法
スタートアップ企業において、採用は非常に重要なミッションです。そして、会社のフェーズによって、適切な採用手法は変わるもの。成長フェーズに合わせた採用ができるかどうかで、採用成功の確率は大きく変わってきます。
この資料では、急成長するスタートアップ企業のために、成長フェーズごとに考えるべき採用戦略、適切な手法を事例付きで紹介しています。
207株式会社
代表取締役
高柳 慎也氏1989年生まれ。山口大学を卒業後、福岡のベンチャー企業に入社し訪問営業を経験し、その後、京都にて同事業を起業。2012年に上京して、設立半年のITベンチャーに2人目の社員として入社し、Webシステムやアプリの受諾開発ディレクションを経験。 2015年に株式会社チャプターエイト創業と同時に参画する。システムおよび事業の開発責任者として4つのプロダクト開発を推進。「ABCチェックイン」という民泊チェックインサービスの事業売却を経て退職した。2018年に、物流のラストワンマイル領域にフォーカスし、207株式会社を創業。https://www.wantedly.com/id/shinya_takayanagi207
20名のメンバーで開発を続ける、物流のラストワンマイルをコントロールする4つのサービス
――この度はIVS2021 SPRING LAUNCHPAD、優勝おめでとうございます。ますます207様が躍進する年になりそうですね。あらためて、貴社のサービスについて教えてください。
ありがとうございます。弊社では、物流のラストワンマイルの領域に特化したサービスを運営しています。大きく分けると2つの事業領域があり、1つは配送員や受取人、物流会社向けのシステム「TODOCU(トドク)シリーズ」、もう1つがギグワーカーを活用したシェアリング型の配送サービス「スキマ便」です。
TODOCUシリーズは、配達員向けの配送効率化アプリ「TODOCUサポーター」、受取人向けの再配達がなくなるサービス「TODOCU」、物流企業向けのSaaS「TODOCUクラウド」の3つのサービスから成り立っています。
――これらのサービスを開発した背景を教えてください。
きっかけは大学1年生の時、インドをバックパッカーとして旅した時のこと。日本で借りていた家を2〜3ヶ月空けることになりましたが、部屋にある家具・家電を捨てるわけにもいかず、使わない部屋に家賃が発生することへの不満を感じていました。「家にあるモノを倉庫に預けて、どこにいても取り出せる仕組みがあればいいのに」と考えていたんです。
その後、倉庫に荷物を預けて、スマホで管理ができるサービス「サマリーポケット」の存在を知り、運よくその開発に携わることになりました。そこで自分が思い描いていたサービスに関わることができましたが、同時に物流のラストワンマイルの部分に課題があることを痛感。リアルなモノのクラウドの概念を成り立たせるためにも、テクノロジーを利用して課題解決をしたいと思ったのです。
――それぞれのサービスがどんな役割を果たしているのでしょうか。
TODOCUを通じて配送員の方に「受け取りユーザーの在宅・不在情報」を提供することで、配達員の方が効率的に配送でき、かつ、受け取りユーザーも再配達依頼をしなくていい状態を目指しています。そのために、ターゲットが異なるTODOCUシリーズを提供して得られる情報(配送効率化データ)を活用しているんです。また、TODOCUシリーズが広がるごとに配送効率化データが当社に蓄積していきます。その配送効率化データを活用することで、配送初心者でも高い配送効率を実現できるようにした「スキマ便」を展開しています。
――4つのサービスを展開されていますが、現在は何名のメンバーが働いているのか教えてください。
弊社には、正社員・業務委託を合わせると27名のメンバーが在籍しています。エンジニア5名を含むフルメンバーは10名ほどです。職種で分けると、エンジニアが約6割、そのほかは営業やカスタマーサクセスなどを担当するビジネスチームに所属しています。プロダクト別では、TODOCU事業に携わるメンバーがほとんど、スキマ便を担当しているのは約3名ですね。
創業2年目、ヘッドとなるCTOを自ら口説き採用
――貴社は2018年1月に創業後、同年5月に最初のサービス「夜間配達(日中に荷物を受け取れない、忙しい独り身のビジネスパーソン向けのサービス)」をローンチされています。当時は、どのような組織体制で開発を進めていたのでしょうか。
学生時代のつながりや、新卒で働いていた会社の同期や先輩など、知り合いを巻き込んだ4名のチームでサービス開発を進めました。そうすることで、開発資金がなくても、お金をかけずに開発できたんです。ただし、最初の半年くらいは、作りたいサービスはあるものの、開発リソースが足りていませんでした。
そのような状態でも、最短で出せそうな「夜間配達代行サービス」を開発したんです。これは「LINEチャットbot」を活用することで、ユーザー登録から配達依頼、決済までを効率的に行えるサービスです。LINEチャットbotを開発するだけなので、少人数でも短時間でプロダクト開発できました。
――創業当初、「組織づくり」については、ほとんど考えていなかったとお聞きしました。どんなことに注力されていたのでしょうか?
当時は、「何か作ればいけるだろう」という思いが強く、組織づくりよりもプロダクトづくりを優先していました。そのため、私は受託開発をすることでプロダクト開発に必要な資金を稼ぐことに集中し、プロダクト設計は信頼できるエンジニアに任せていたんです。そうすることにより、お互いの強みを発揮しながら、エンジニアのモチベーションを下げずにプロダクト開発を進めていけるだろう、と考えました。
また、毎週メンバーと一緒にご飯を食べることで、コミュニケーションを密にしていました。その結果、メンバーのコミット度が上がって、開発が早く進むようになった感覚があります。こうして、約1年半かけて「TODOCU」の開発に取り組んでいきました。
――はじめは、プロダクトづくりに注力していたのですね。そこから、組織づくりを意識するようになったきっかけがあったのでしょうか。
2019年の年末「TODOCU」と「TODOCUサポーター」をリリースし、配送員の方などに試してもらった結果、良い反応を得られて、「これはいけそうだ」と思ったんですよね。ただ、さらに良いサービスへと育てていくためには、少人数のチームでは限界がありました。やはり作るだけでは限界がある。さらに成長していくためには、サービスを売り込んだり、利便性向上のために他社と業務提携したりといったように、事業としてスケールする必要があります。それが見えてきたことで、組織づくりが必要なことを痛感したんです。
――具体的には、どのようなアクションを起こしたのでしょうか。
業務委託のエンジニアをフルコミットで働くメンバーに切り替えるなどして、一人ひとりのコミット度を上げたんです。彼らには、将来や未来を見据えたうえで組織やカルチャーを醸成していくために、正社員になってほしいとお願いしました。また、2020年1月には第1号のエンジニアが、2020年3月には第2号のエンジニアが入社しました。
なかでも、とくに会社の転機となったのが2020年。現CTOの福富 崇博の入社です。福富は、前職の時につながりがあった優秀なエンジニアで、「絶対にヘッドになる」と思っていたんですよね。私はこれまで、少人数の組織しか経験していません。そのため、組織づくりをする必要があるのに、その方法がわからなかったんです。エンジニアの組織づくりについても知見がありませんでした。一方、福富はミクシィやDeNAなどの大きなITベンチャーを渡り歩いているので、その知見を教えてもらうことで、組織づくりに活かすことができると思ったんです。だから、実家の富山に帰郷していた福富をスカウトするために、単身で口説きに行きました。
――優秀なエンジニアともなれば、引く手あまただと思いますが、どうやって口説き落としたのか気になります。
まずは、福富の境遇や課題をヒアリングしました。もともと東京に住んでいた彼は、実家に戻っていたものの「また上京してもいい」とは言っていたので、口説くための材料としてオフィスに「部屋」を用意したのです。福富に「部屋を無料で提供する代わりに、上京して私らのプロダクトを副業で開発してください」とお願いしました。そして、私たちの活動を近くで見てもらい「いつ正社員になるんですか?」と押していって、フルコミットのメンバーとしてジョインしてもらったんです。スタートアップが優秀な人材を採用したいときには、地道な努力が必要なのだと思います。
――実際に福富さんが参画したことで、どのような影響がありましたか。
実際、彼のおかげで開発スピードが圧倒的に上がり、組織づくりをするための知見も得られました。また、豊富な経験をもつ福富に若手のエンジニアが付いていくため、エンジニアリング組織を一任できました。彼に求めているのは、組織をグロースさせること。技術面はリードエンジニアとして別のエンジニアに任せていますから、組織をグロースすることに集中できる環境になっています。
組織をグロースさせるために欠かせなかったのは「信頼関係の醸成」
――ここまでプロダクトと組織づくりの変化について話を伺いましたが、高柳さんが採用活動やメンバーとのコミュニケーションで意識していたことを教えてください。
最初の1年半くらいまでは、採用媒体などを使わずに、リファラルで採用することを強く意識しました。どのような形で採用するにしろ、最初は業務委託でジョインしてもらっています。そして、週に1回ある「鍋会(みんなで鍋を囲んで、仕事に関する話題を議論する会)」でコミュニケーションしながら、弊社が掲げる「Values」とフィットしている人なのかどうかを見極めているんです。
――最初にリファラルで採用することを強く意識したのは、なぜですか。
これまで関わりのある人であれば、その人のスキルやパフォーマンスを理解でき、信頼した状態で仕事を任せられるからです。また、心理的距離から生まれる「無駄なコミュニケーション」をなくせる可能性が高くなります。リファラルで採用した人たちは、みんなで仲良く鍋を囲むイメージが付いたんですよね。次第に「仲間意識だけでは超えられないフェーズ」に入っていくとは思いますが、最初はリファラルで採用してよかったなと思っています。
――これまでの組織づくりのなかで、注力してよかったことを教えてください。
会社を立ち上げたばかりの時、エンジニアに報酬をしっかりと支払い続けたことですね。そもそも、プロダクトがなければ、ビジネスサイドも活躍する場所がありません。だから、エンジニアの納得する報酬で依頼することを心がけ、開発には手を抜かないようにしました。
一方、ビジネスサイドは知り合いで固めて、相手にも納得してもらえるギリギリの報酬まで交渉しました。また、基本的には私が仕事を巻き取り、手が回らなくなったところだけを信頼できる人にお任せしたんです。
「Be open」を強力に推し進めることで、ひとりひとりが自走できる、結びつきの強い組織をつくる
――貴社の採用では、応募者のスキルよりも「Values」とフィットしているかどうかを重視しているようですね。
スキルは十分条件でしかなく、Valuesは必要条件だと思っています。たとえスキルが高い人でも、Valuesがフィットしていなければ、チームの団結力が生まれにくいでしょう。その結果、チーム崩壊が起きて、雰囲気が悪くなる可能性が高いと考えています。
――具体的には、どのようなValuesを掲げているのでしょうか。
「Speed with quality(スピードMAX、クオリティ7割)」「Be open(情報の透明化と自律駆動)」「3S(先生であり、生徒であり、科学者であれ)」の3つです。
なかでも、「Be open」を強力に推し進めています。そのため、メンバーの入社理由や得意・苦手分野だけではなく、投資家の方とのセンシティブなやりとりの内容や人事情報など、業務委託の方の報酬以外はフルオープンにしました。
結果として、組織の中でのコミュニケーションコストが減りました。組織を運営していくうえで、噂話などの「無駄なコミュニケーション」が発生している組織もあります。たとえば、「同僚は自分よりも給料が高いらしい」などの噂話のせいで、トラブルが起きている会社もあるでしょう。
そうならないように、情報をすべてオープンにしました。ファクトだけがわかれば、疑心が減るので、噂話は一切なくなります。また、新しく入ってきたメンバーも、他のメンバーの人となりがわかるので、コミュニケーションをとりやすくなるんです。
▼「Be open」を推し進めるために、オープンミーティングなどを実施https://speakerdeck.com/sinrush/207hui-she-gai-yao-210502?slide=38
――ファクトだけがストレートに伝わることで、マイナスなことも起きそうですが。
そうですね。「実績を出せなかったから自分は異動になった」など、ファクトがストレートに伝わることで、もちろん傷つく人はいるでしょう。ただ、今のフェーズだからこそ、それは了承しているんです。これは社会実験に近くて、組織づくりをするうえで、メンバーから出てくる不平・不満をどうすれば改善できるのかに挑戦しています。
そもそも、ValuesにBe openを掲げているのは、社内のあらゆる情報をオープンに共有することで、各メンバーが会社やお互いへの信頼をベースに「自立駆動」できることを目指しているからです。私らはフルリモート・フルフレックスな働き方をしているスタートアップ企業で、一人ひとりが有機的に動かなければなりません。Be openを実行することで、情報の透明度が高くなって、みんなが情報をキャッチアップしやすい状態となり、自律的に動きやすくなるんです。
――チーム内での結びつきが強くなることで、さらにより良いサービス開発が進みそうですね。最後に、今後の展望について教えてください。
私らが展開しているサービスは、物流の中でも「ラストワンマイル」というニッチな領域の課題を解決するものです。とはいえ、そこには約2.5兆円のマーケットがあり、課題も明確で困っているユーザーが大勢います。かつ、10年後や20年後には、ドローンや自動運転の技術によるパラダイムシフトが起きる領域です。その時、配送を効率化させるためのデータが必要になるでしょう。その未来に備えつつ、今の日本全体における課題を解決できるように、事業をグロースさせていきたいと考えています。
――今後も多くのユーザーに注目されるサービスになりそうですね。本日はありがとうございました。
▼スタートアップが取るべき採用戦略とは?https://www.wantedly.com/hiringeek/recruit/su_strategy