スタートアップに必要な「採用・組織づくり」のポイントについて河合聡一郎氏と探求する連載。今回は株式会社セールスフォース・ドットコムの古瀬悠人氏に登壇いただきました。2013年にセールスフォース・ドットコム社に入社した古瀬さんは組織が急成長する過程を採用担当者として支えてきました。事業も組織も急成長するセールスフォース・ドットコムの組織づくりについて河合聡一郎氏が迫ります。
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スタートアップの最適な採用方法
スタートアップ企業において、採用は非常に重要なミッションです。そして、会社のフェーズによって、適切な採用手法は変わるもの。成長フェーズに合わせた採用ができるかどうかで、採用成功の確率は大きく変わってきます。
この資料では、急成長するスタートアップ企業のために、成長フェーズごとに考えるべき採用戦略、適切な手法を事例付きで紹介しています。
セールスフォース・ドットコム
リクルーティング シニアディレクター
古瀬悠人 氏オレゴン大学卒業後、FXアナリストとして活躍。Executive Searchファームに転職し、IT業界に特化した人材に対するキャリアコンサルティングに従事。2013年株式会社セールスフォース・ドットコムへ入社。現在はリクルーティング シニアディレクターとして中途採用チームをリードしている。
セールスフォース・ドットコムが駆け抜けた20年
河合聡一郎氏(以下、河合):本日はよろしくお願いいたします。12年ほど前ですが、私も御社に所属をしていたことがあるので、お話を伺えるのを楽しみしておりました。もともと古瀬様は中途採用でセールスフォース・ドットコム社に入社されたと伺っております。まずは古瀬様のご経歴や入社されたきっかけをお伺いできますか?
古瀬悠人氏(以下、古瀬):よろしくお願いします。私はアメリカに生まれ、大学まで過ごし、就職のタイミングで日本に来ました。その後人材エージェントに入社し、弊社の担当をしていたことが縁で、2013年に入社しました。
転職理由はいくつかあるのですが。前職時代、セールスフォース・ドットコムに紹介し、入社した社員が、その後誰も辞めていなかったこと、またこれからどんどん成長するクラウド業界の伸びる企業で働きたいと思っていたこと、最後にアメリカでは候補者はエージェントを介さず直接希望する企業へ応募をする傾向が強くなっていたので、将来的にエージェント業の仕事が少なくなるのではという懸念がありました。そのような観点から、インターナルリクルーターにシフトしたいと考えたことがあげられます。これらを総合的に考えた時に、セールスフォース・ドットコムへの入社がベストだと判断し決めました。
河合:当時の日本採用市場でも、企業が直接候補者にスカウトを送る「ダイレクトソーシング」が浸透し始めてきた頃ですよね。そうした中で、エージェント業界も今後は生き残りをかけてさらなる競争をしていくタイミングでした。セールスフォース・ドットコムに入社をされてみて、外からご支援をされていた際の印象と、何かイメージのギャップはありましたか?
古瀬:採用はもちろん、組織の変化や会社の成長に至るまでのスピード感がものすごく早く、入社初日から圧倒されました。常に何か目新しいことが起こるので、学びながらマラソンを全速力で走っている感覚でした。
また、さまざまな領域で裁量のある仕事をたくさん任せてもらえる。あるミッションをやりきったら次のミッションが用意されているのも、飽きずにこの会社で働き続けていられる点ですね。私の場合、リクルーターとして入社しましたが、他ロールのさまざまなサポートも行っていました。
河合:スピード感といい、「会社の成長のためにさまざまなチャレンジをして欲しい」といった、ベンチャー感がありますね。
古瀬:ええ。弊社は、一人ひとりの職務範囲が非常に広い。外資系は本社からの指示が降りてきて、その通りのことしかできないというイメージがあるかもしれませんが、Salesforceは逆のケースも稀ではありません。日本独自で考えて、「このやり方は世界でも活かせるのでは」と提案が通ることが複数回ありました。実際、日本の採用チームの提案が取り上げられたこともあり、高揚感を覚えた経験をしています。日本とアメリカの文化が上手く混ざった会社という感じですね。
これは採用チームだけで感じることではなく、全社員が同じ認識を持っていると感じています。常に何か新しいことを起こそうと社員一人ひとりが思っている。だからこそ成長しうまく会社全体が伸びた。自分の職域以外の領域もきちんとカバーするマインドセットのある社員が多く在籍していることも弊社の特徴です。そういった想いが個人や会社の成長を牽引したのではないか、と思っています。
河合:2010年代前半は、SaaSやクラウドという概念が日本でも浸透し始めたタイミングだと思っています。今でこそ、カスタマーサクセス、インサイドセールスといった言葉はSaaSのビジネスも広がったことにより認知を取り始めていますが、当時はまだこうしたロール自体が知られていなかった。そのような中、古瀬さんは当時どのように採用を進めていったのでしょうか?
古瀬:当時は『The Model』という概念自体がまだできたばかりの頃でしたね。さまざまなロールに対するどのような候補者を採用すべきという明確な答えはなかったものの、「営業が1人採用できたら売上がどれだけ上がるか」という分析結果は出ていました。そこで、部門に採用数を目標として持って欲しいと伝えていました。採用人数を部門のKPIに組み込み、リーダーを巻き込み、採用のプロセスをきちんと回して達成することを行った結果、採用数も増えて組織もどんどん大きくなりました。
ハイアリングマネージャーにはチームを創ることが求められているため、採用活動への理解も深めてもらい、採用の一連の流れにも責任を持ってもらえるような意識付けを行いました。新しくマネージャーに就任した際には必ず営業向けのトレーニングを受けてもらっていましたが、加えて同時に採用のトレーニングも受けてもらうようにしています。たとえば採用における面接トレーニング。候補者の選考プロセスでのフィードバックを私たちリクルーティングチームは大切にしているので、面接では候補者も面接官の評価を行っています。面白い考え方ですが、面接官も逆に候補者から面接を受けているような状況が生まれているのです。そのため、職種別でコンピテンシー(資質)を基にした質問を行うよう伝えています。
ただ、弊社の営業は製品ではなくビジョンを売るので、経営者に売る場合と部門のトップに売る場合ではコミュニケーションの方法が変わりますし、大企業へ売る場合と中小企業に売る場合でも変わります。これらのコンピテンシーが求める内容は多く判別も難しい。1人の面接官だけでは聞ききれないため、一人ひとりの面接力を上げながらも、面接官を分けて複数回に渡って聞くようにしています。
社員が増える中で大事にしてきた「エンプロイヤーブランディング」
河合:古瀬さんは周囲の協力も得ながら、10年近くセールスフォース・ドットコムで採用を行ってきており、会社の急成長を支えてらっしゃると思います。これまでのご経験も踏まえて、採用活動で大事にされていることをお伺いできますか?
古瀬:私が入社してから社員数は大幅に増え、社員数の増加に伴い収益も伸びました。年間で相当な人数を採用しなければならないので、とにかくさまざまなチャネルを活用し採用を行ってきました。最近ではWantedlyなどのメディアを通じ、集客だけでなく、ブランディングにも取り組んでいます。
その中で意識していたのは、会社としてのブランドとエンプロイヤーブランドの2つがあること。とくにエンプロイヤーブランドは会社のブランドと合わせて候補者とコミュニケーションしていかなければなりません。お客様に対するカスタマージャーニーと同じように、従業員に対してもエンプロイージャーニーを描くようにしています。入社前と入社後とそれぞれ施策があるのですが、入社前は「セールスフォース・ドットコムでどのような挑戦ができるか」を中心に描き、入社後は「ギャップはないか。あらためて今やりたいことができているのか」を聞いていきます。
とくにどんなキャリアをセールスフォース・ドットコムで築けるのかを理解してもらえるようにコミュニケーションしています。よくあるケースはキャリアパスが大体決まっていて、1つの部署からスタートしたら上位の職位にたどり着くことだと思います。弊社の場合は非常に豊富なキャリアパスを用意しています。そのため、幅広いエンプロイージャーニーを描けるだけではなく、社内公募で異なる職種に移ることもできる。自分でキャリアをコントロールできることは、離職防止にも繋がります。
河合:まさに、製品をご利用いただくお客様の、「カスタマージャーニー」を創り上げるように、御社を選んで活躍していただけるイメージを持っていただくよう「エンプロイージャーニー」を面談時から設計されているんですね。選考時からちょっとしたオンボーディングプロセスのように思えます。たしかに、インサイドセールスを経て、外勤営業へ…というキャリアもわかりやすいですが、キャリアの多様性があり、社員自身が手をあげることができるのはポジティブですよね。
古瀬:他社では稀な例になると思いますが、SEから営業になった方もいます。また、会社が大きくなりさまざまな部署ができた結果、一度はセールスフォース・ドットコムを離職した方が出戻りするパターンも増えました。
河合:「新しいチャレンジをしたいから」と転職する機会を求める方は多いですが、社内に機会を用意してあげれば、確かに出戻りされる方は増えますよね。また1度、外で経験した方は、新しい視点を取り込んでくれたり、エンゲージメントが高かったりします。何より、在職時の良い思い出や繋がりがあるからこそ、出戻りができるカルチャーや環境も魅力的です。
古瀬:とはいえ、まだまだ人材や採用への投資をしなければと思っています。たとえば、女性の社員比率を上げ、将来的には経営を担う人材にまで育成していきたいと思っています。IT業界の経営者は女性割合が非常に低いです。ですから、イノベートに考えると市場ごと変えていかなければならないと思っています。Women in Technology International(WITI)というNPOと「女性のキャリア開発」に取り組んだりと、女性に認知していただくことも重要なため、ブランディングにも投資している最中です。
日本文化が稀有なのは、結婚して子どもが生まれると元の仕事に戻らない方が非常に多いこと。アメリカや他の国ではそんなことはありません。女性であっても採用、育成を経て、経営を担う人材になってもらいたいですね。
河合:D&IやSDGsがこれまで以上に注目され始めている中で、会社としても様々なお取り組みをされている印象です。そんな中で、これからどんな人材に入社、活躍して欲しいと考えていらっしゃいますか?
古瀬:セールスフォース・ドットコムでは「世界を変えたい」という想いを持ちカスタマーサクセスの信念を持った方が活躍していける会社です。たとえば営業の場合、実際にお客様に良いものを提案していく中で、現在のニーズに合わせるだけでなく、「お客様をどう次のステージへ連れて行くか」というビジョンをお客様と一緒に考えていきたい。とくに諸外国と比べても日本ではコロナ禍でデジタルトランスフォーメーションがより加速していますが、経験がなかったり、理解が追いついていなかったりする方も多いので、どうロジカルに説明するかが大事だと思っています。
河合:マインドセットはベンチャーと同じく、やはり「世界を変えたい」という想いは本当に大切ですよね。私も一時期御社に所属していましたが、今でも交流がある当時の皆様は、変わらずその信念で取り組んでらっしゃるなと思います。これからのますますの飛躍、楽しみにしています。今日はありがとうございました。
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