昨今パーパスが着目されるなか、Wantedlyでもパーパスを軸にした共感採用を提唱しています。とはいえ、パーパスという言葉に少し胡散臭さを感じていたり、1つの流行り言葉として懐疑的に見ている方も多いのではないでしょうか。
「パーパス自体は大事ではあるものの、それがすべてではない」と話すのはLINE株式会社で人事を務める青田努氏です。
「パーパス自体は本当に必要なのか?」「パーパスを採用担当者はどう捉えて施策に落としていけばよいのか?」についてお話をうかがいました。
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青田 努 氏
LINE株式会社
Organization Successセンター People Experience Designerリクルートグループに通算10年在籍し、リクナビの学生向けプロモーション、求人広告の制作ディレクター、自社採用担当を務める。その後、アマゾンジャパン、PwCなどで人事マネージャー(主に中途採用領域)を経て、『日本の人事部』では、人事・人材業界向け講座、人事の交流会・勉強会組織、HR Techメディアなどを立ち上げる。2017年にLINE入社し、Employee Success室副室長などを経て、現職。
パーパスは重要ではあるが囚われすぎないことが大切
Wantedlyは、2022年4月に求職者及び採用担当(Wantedly利用者/非利用者の双方とも含む)に1,340名に対して「企業のパーパスと採用に関する調査」を行いました。
それによると、求職者側では「入社時にパーパスを『かなり重視した」人は年々増加し、直近5年間で倍増」「給与よりもパーパスを重視して転職した事がある人は43%、今後そうすることがあると思う人は63%」「パーパスに共感している人とそうでない人とでモチベーションが高い人の割合に2.5倍の差がある」といった結果が明らかになっています。
【参考】ウォンテッドリー、企業のパーパスと採用に関する調査結果を発表
https://www.wantedly.com/hiringeek/recruit/pr_purpose
この調査結果から、求職者に向けて「パーパスを重視した採用施策を」と考えるのが筋でしょう。しかし、「パーパス自体は大事ではあるものの、囚われすぎない方がいい」と話す青田氏。その理由について、次のように語ります。
「確かに昨今、パーパスを打ち出す企業も増えており、パーパスへの共感を持って企業を選択し、入社をする方は増えたように思います。ただ、パーパスへの共感度合いが高いからといって、その方がハイパフォーマーとも限りません。分析を行ってみると、パーパス重視型よりも『難しい仕事を成し遂げたい』というクエストクリア型の方がハイパフォーマーなケースもあると思います。
もちろん、Wantedlyの調査では『パーパスへの共感度合い』と『モチベーションの高さ』に相関関係があったと思いますが、これを因果関係と結びつけることには疑問です。あくまで結果論に過ぎない可能性があります。」
加えて、パーパスに共感して入社した人が長期的に価値発揮しているかに関しても注視する必要があると言います。
「パーパスへの共感が持続するかも、少し丁寧に見た方が良いでしょう。スタートアップ界隈で働いている人は、入社時や退職時にブログ記事やSNSを投稿する方々も珍しくありませんが、パーパスに共感して入社したはずが短期間で再び転職されている様子を見かけることもあります。やりたいこと自体は数年単位で随時更新されていくのはもちろんですが、パーパスに共感した人が定着するかは、別で考えた方が良いように思います。未知数な部分も大きいのではないでしょうか。
パーパスへの共感自体は個人差があるものですから、『すべての人がパーパスに共感して働くもの』という認識を持ちすぎないことが重要だと考えています。」
仕事における7つの報酬のどれを提供できるか?
青田氏は「候補者一人ひとりにフィットした報酬を」と話します。
図版:仕事における7つの報酬
https://note.com/aotatsutomu/n/n78927c468e1b
「仕事における報酬には少なくとも7つあると考えます。
『事業内容に社会的意義を感じられる』『役に立っている実感が得られる』などの『納得報酬』
『会社のビジョンにワクワクする』『エキサイティングな挑戦ができる』などの『浪漫報酬』
『仕事を通じて成長実感が得られたり、支援する制度や仕組みがある』などの『成長報酬』
『職場の関係や雰囲気に恵まれている』などの『関係報酬』
『自身の能力が発揮しやすい環境が整っている』といった『環境報酬』
『給料が良い、魅力的な福利厚生がある』などの『金銭報酬』
『業界や企業に安定性がある』『ライフステージに応じた働き方が出来る』などの『安心報酬』
この7つの観点で、自社や応募しているポジションは、それぞれの報酬に対してどれだけ魅力的なモノを提供できるのかを考えた方が良いでしょう。また、すべてを満たすことはできないので、何を重視するのかを考えて提供できると良いですね。」
自社で働く人が何を求めているのかを確認しておくと良さそうです。
採用に強い企業がやっていることとは?
パーパスが候補者を惹きつけるための万能薬ではないと認識した上で、採用担当者はパーパスをどう考え、向かい合っていくのが良いのでしょうか。青田氏は次のように話します。
「まずは、経営陣自身が『会社をどのようにしていきたいのか』という内容について言語化すること。たとえば会社経営で、『儲かるけれどやらないこと』といった内容から見える部分もあるでしょう。
そのエッセンスを抽出してパーパスを制定することが大事だと思います。注意したいのが、ここで多くの人が関わってしまうと普遍的な内容になり、誰の心にも刺さらない言葉ができること。パーパス自体はミッション・ビジョンよりも時間軸が長く、十年単位を見越して考えるべきだと思うので、経営者自身で言語化しましょう。
なぜなら、経営者と一従業員では視座が異なるからです。視座を高くしないと、遠くまでは見渡せません。日常的に発揮すべき「バリュー」や「年間目標」などにおいては従業員が主体で決めるという方針でもいいかもしれませんが、パーパスは長期的なものなので視座の高さは必須です。
また、パーパス策定の際には従業員たちを巻き込まないと自分ごと化できない・共感を得られないかもしれないという心配から「みんなで考えよう」というプロセスにしがちですが、従業員たちが共感できないとしたらそれは単にできあがったパーパスが心を打つものではなかったということです。理解促進・浸透促進フェーズにおいては従業員たちの巻き込みは必須ですが、策定においては少数精鋭で議論を交わすことが重要と考えます。
採用担当者は、言語化されたパーパスに沿って、自社のハイパフォーマーや採用ペルソナに似た方にヒアリングを行なうとよいでしょう。ヒアリングといっても雑談的に『なんでこの会社に入ったんですか?』といった表面的な質問で得られる内容は限定的になってしまいます。『なぜですか?』『それは、どうしてですか?』と掘り下げていくことが必要です。
よく採用担当者が『採用広報をしようと思っても社内に魅力的なネタが無い』と話すのも耳にしますが、ヒアリングやネタ探しを十分にやりきれていない場合が多いのではないでしょうか。社員自身が、会社の魅力や好きなところをうまく言語化できていないことはままあります。それを丹念にヒアリングして、時には気づきを促すことが重要です。出てきた内容が先程のどの報酬に分類されるか、カテゴライズしていくとよいでしょう。」
きちんと掘り下げをしていくことで、思いもよらなかった自社の強みが出てくるもの。「オフィスのファシリティにこだわっていて、人の能力発揮を邪魔しない発想で会社運営されている」「同僚が優秀だからモチベーションが上がる」といった、隠れた強みにたどり着くことができます。
「経営者の言語化できていない想いを言語化することと、社員へのヒアリングからでてくる共通項から、自然と採用したい人物の像も見えてくるのではないでしょうか。
ミッションやビジョンは自然と企業の在り方が見えてきます。
たとえば、グッドパッチさんの『デザインの力を証明する』や、サイボウズさんの『チームワークあふれる社会を』などは、企業の体をそのまま表していますよね。パーパスと位置づけては居ませんが、サンリオさんの『みんななかよく』や劇団四季さんの『舞台成果による経済的自立』なども企業として何を重視しているのか、わかりやすい言葉だと思います。」
企業のパーパスがあった上で、さらに事業部やチームでのパーパスについて考えられるとより行動にも落としやすくなると青田氏は説明します。
「パーパスの言語化やヒアリングは、採用に強い企業は当たり前にできていることがあります。ですから、取り立てて目新しい内容でもないかもしれません。ただ、改めて自社の採用における施策がこれらに沿っているものかどうかは見てみてはいかがでしょうか。」
自社のパーパスの制定が経営者の言葉をきちんと言語化したものであり、現場で生きているか、再度確認してみるといいかもしれません。
時代の変化に伴い、採用への考え方はアップデートしていく必要があります。
以下の記事では、これからの採用に必要な基本的な考え方や、採用のトレンドについてわかりやすくまとめているので、ぜひ合わせてご覧ください。
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