近年、パーパス経営という言葉が広まりつつあり、「企業の存在目的や社会的意義」を掲げる企業も増えてきました。
「パーパスの理解度を深めることは、採用の成果にも繋がる」と話すのは、Almoha共同創業者COOで、デジタル庁でも人事・組織開発を担当する唐澤俊輔氏。
唐澤氏は過去に、メルカリで執行役員・人事組織責任者、SHOWROOMでCOOを務めており、著作には『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』があります。
今回はそんな唐澤氏に、企業のパーパスが注目される理由と、共感採用を行うために採用担当者ができるアクションを聞きました。
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唐澤 俊輔
Almoha LLC 共同創業者COO / デジタル庁 人事・組織開発大学卒業後、2005年に日本マクドナルドに入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、全社の V字回復を果たす。
2017年よりメルカリに身を移し、執行役員 VP of People&Culture 兼 社長室長として、人事・組織の責任者を務める。
2019年からは、SHOWROOMにて最高執行責任者(COO)として、事業と組織の成長を牽引。
2020年にAlmoha LLCを共同創業し現職。COOとして組織開発やカルチャー醸成のコンサルティングおよび、組織開発のためのサービスやシステムの開発に取り組む。併せて、デジタル庁にて人事・組織開発を担当。グロービス経営大学院 客員准教授
『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』著者
企業が変革を起こす軸となるのがパーパス
共感採用を考えるにあたって、まずは企業が掲げるパーパスについて定義すべきだと唐澤氏は言います。
「パーパスは『会社の存在意義や目的』を指し示す上位概念です。宣言することで、目指したいゴールを明確にし、1つ下のレイヤーでミッション・ビジョンがあり、『自分たちが何をするのか』や『どういう姿でありたいか』を定義しています。そして、社員が主語になった際の行動や価値観の指針を定義するバリューがあります。
自分たちが何を大事にしたいかを言語化して、解像度が高い状態で共通認識として持つことが望ましいでしょう。昨今では、伝統的な大企業もパーパスを掲げています。地方にある中小企業でもミッション・ビジョン・バリューを定めるといった動きも出始めています。」
各企業がパーパスを掲げる背景には、企業の成長、ひいては日本の低い成長性があると指摘します。
「そもそも日本の成長を考えたときには、企業の成長が必要です。ただ、人口が増えていたときと同じやり方をしてはいけません。ここ30年の状況を見ると、日本だけGDPも物価も上がっていないですよね。成長を志向しないと衰退してしまうので、問題だと感じています。
ただ、チームリーダー経営を採用していた日本企業的な経営ではなかなかイノベーションは起きません。これからの成長には、今までにいないタイプの人材を採用していく必要があります。現場に任せながら業務を進め、変化志向で分散型の全員リーダー経営が必要だと思っています。」
引用:カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方
変革を起こすためには、前提が揃わないと議論が噛み合わないものです。
前提を揃えるための軸となるのがパーパスであると唐澤氏は言います。
「Z世代の価値観も変化しています。フィリップ・コトラーのマーケティング理論にもありますが、高度経済成長は『良いものを作っていれば売れた』時代でした。マーケティング2.0は『顧客の望む製品を』です。そして、現在のマーケティング3.0・4.0・5.0は『ストーリー』が必要です。顧客が望む良い品であり、それを購入しようと思えるストーリーがないとZ世代にモノを売ることはできません。その一貫性のためにもパーパスが必要なのです。」
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パーパスを決める際は多くの人を巻き込む
では、実際にパーパスを制定するためにはどうすればよいのでしょうか。
パーパスの議論を進める際、経営陣のみで完結させて決定事項をトップダウンで告知する方法もありますが、唐澤氏はそれに異を唱えます。
「パーパスを決めるプロセスには、多くの人を巻き込みましょう。パーパス自体を言葉にするだけでなく、解釈を統一して浸透させることが重要です。そのために、思考のプロセスを共有することが必要になります。社員が同じ言葉の解釈を持つことで、掲げるパーパスへの共感が生まれます。」
現在、唐澤氏が携わるデジタル庁内でも言葉の解釈を巡る動きがあるのだとか。
「『スピーディ』という単語ひとつとっても、役所と民間では感覚が違います。スタートアップではスピーディといったら即日実行して反応を確認し、アジャイルに改修しながら進める。ところが、役所はエラーが出たら修正の対応が必要だし、国民に迷惑をかけられないので100点のものを作ってリリースする。むしろその方が手戻りが少なくてスピーディだと捉える。
どちらも立場の発想としては理解できます。ただ、同じ言葉でも意味合いが随分と違うので解釈をすり合わせる必要があります。」
パーパスを作ったら、採用担当者が自社のパーパスを伝えて採用に繋げることが重要ですが、ここでもいくつかポイントがあると唐澤氏は指摘します。
「企業におけるパーパスはいくらでも綺麗事を書けるもの。ただ、みんなが知りたいのは実態がどうなっているかです。崇高な目的を掲げていても、実際に入社して違うとなれば、ギャップを感じてモチベーションが低下します。偽った見せ方は避けて、現在地がどこかを伝えつつ、ギャップがあるからどうやって埋めるかを話すと良いでしょう。
また、採用活動では母集団形成に力を入れがちですが、本質的ではないと考えています。仮に100人採用したい場合に、通過率1%だと1万人の募集をかけなければいけません。採用できない人をいくら集めても意味がありませんから、『こんな人に来て欲しい!』と明言して、共感した人を採用するのが理想です。自社に共感した人をピンポイントで集められるブランディングを、どこまでできるかが重要です。
デジタル庁の採用でもギャップがあります。一般の方からすれば役所は固くて年功序列というイメージを持つことでしょう。しかし実際は、行政のような年功序列で安定した職場で働きたい方に来てほしいというメッセージではなく、立ち上げはカオスで何も整ってないけど、それをゼロから創っていく仕事と伝えています。
スタートアップらしいカルチャーを持ち込みながらデジタル庁の改革を大胆に進めることが一つのビジョンなので、非常勤の職員として兼業しながらでも働くことが可能だと分かるようにしています。
イメージしにくいかもしれませんが、デジタル庁では役人と民間人材が相互に学びあっています。役人はデジタルがわからないから教えて欲しいし、デジタルが分かる民間人材は役所での動き方がわからない。どちらが偉いとか正しいとかはジャッジせず、『今この状況をより良くするにはどうすべきか』という議論ができます。現にデジタル大臣の牧島さんや、デジタル監の浅沼さんも、パッと来て話すことも多々あるエキサイティングな環境ですよ。」
ギャップを埋めるには、社内の事情を採用サイトや採用ブログで発信することが大切です。「メルカリ」や「ゆめみ」などは社内規定も評価制度も、制度が作られる経緯が書いてあるので思想が伝わってくると言います。
とはいえ、「confidentialであるノウハウを書いて、流出してもいいのか?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。
「ノウハウの流出は気にする必要はさほどないでしょう。現にメルカリやゆめみのフォーマットをそのまま活用している企業もあります。とはいえ真似すればすぐに同じ組織を創れるわけではないし、何か制度を真似しただけで組織が急激に改善するわけでもありません。企業内にいる人も違うし、カルチャーも違う。開示したところで大したリスクにもなりません。むしろ強いカルチャーを持つことは、それ自体が企業の競争優位になります。」
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採用担当者は「個人のパーパス」を語れるか?
いち採用担当者は、個人として何をすれば良いのでしょうか?
この疑問を唐澤氏にぶつけてみました。
「採用担当者も個人のパーパスを持つと良いでしょう。採用担当者として候補者の前に出るということは、会社の代表として見られます。会社自体のパーパスは説明できると思いますが、それはあくまで会社紹介です。
会社のパーパスと個人のパーパスは100%被っている必要性はありませんし、企業のパーパスがイコール自分の人生である必要性はありません。とはいえ、『なぜ自分はこの会社に居るのか?』を話したときに個人と会社のつながりが見えるもの。人は一生その企業に属するわけではないし、考え方も変わるので、現時点でのパーパスを言えるといいでしょう。主体的に会社を選んだ結果、今の会社に居るのだと伝えることが重要です。」
その上で、採用担当者に向けて「目線を上げることが大事」と唐澤氏は言います。
「3年後、5年後にどこに向かっているのか。その目的や数字に対して、事業計画を作り連動して、パーパスを達成する組織を作るのが人事の仕事。決して、採用だけ、評価だけのファンクショナルな仕事のみではありません。
引用:カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方
事業と両輪で組織を作る感覚を持つこと。すると、自ずと人事と組織としてのKPIができ、10年後の組織目標ができ、事業計画と対になる。事業が変われば組織構造も変わってくると思います。」
まずは個人のパーパスを考えるところから。そして、周囲への対話を通じて会社のパーパスと重なる部分を広げていけば、共感採用へ走っていけるのではないでしょうか。
時代の変化に伴い、採用への考え方はアップデートしていく必要があります。
以下の記事では、これからの採用に必要な基本的な考え方や、採用のトレンドについてわかりやすくまとめているので、ぜひ合わせてご覧ください。
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