組織をつなぐ人事だからこそ持っておきたい「経営的思考」│ FUZE2022【Event Report】

経営戦略、組織戦略、人事戦略を同時に考えることが求められてきており、人事・採用担当者も経営目線を持ち、経営戦略を考えられることが求められるようになっています。

AnyMind Japan CHRO水谷氏とディー・エヌ・エー のヒューマンリソース本部 本部長菅原氏をお招きし、「人事×経営」視点で語り尽くしていただきます。

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▼ゲスト

水谷 健彦様

(AnyMind Japan株式会社 CHRO)

リクルート、リンクアンドモチベーションを経て2013年株式会社JAMを設立。JAM社の経営と並行して2021年2月に現職に就任。13ヵ国・地域で事業展開するAnyMind Groupの人事戦略全体をリードしている。

菅原 啓太様

(株式会社ディー・エヌ・エー ヒューマンリソース本部 本部長)

ITベンチャー企業を経て、2009年にエンジニアとしてDeNAに入社。Mobageの事業責任者や新規事業の立ち上げを行い、2015年から人事領域へ。ゲーム事業などのHRBPを経て、2020年より現職。

司会 SESSION C「組織をつなぐ人事だからこそ持っておきたい『経営的思考』」をはじめたいと思います。

水谷・菅原 よろしくお願いいたします。

水谷 まず、我々の自己紹介をさせていただければと思います。私は1997年に25歳でリクルートに入社し、当時まだ珍しかった人材紹介の業務を経験したのち、2001年にリンクアンドモチベーションに転職しました。

同社は2000年創業だったので、私が入社した頃はまだ社員数が20名くらいしかいない黎明期だったんです。リンクアンドモチベーションでは事業部長や取締役を務め、人材育成やモチベーションを軸に組織風土を変えていく仕事を担当しました。

とても楽しい時期であったと同時に、自分のキャリアにとっても大事な柱になっています。AnyMindではAnyMind JapanのCHROと、AnyMind Group HR全体のManaging Directorを担当しています。

AnyMindは日本ではなく海外から始まったデジタルマーケティングの会社なんです。2016年にシンガポールで十河宏輔が設立し、タイやインドネシアへと展開したのち、7カ国目で日本に進出した形で、現在は東南アジアをはじめ13ヶ国・地域に、グループ全体で約1,300人の社員がいます。

AnyMindは現地スタッフが多いのが特徴で、非常に多国籍な企業です。事業はインフルエンサーマーケティング、D2C、パブリッシャーグロースと呼ぶWebメディアやアプリの収益化・マネタイズが柱となっています。

菅原 私は2009年にDeNAに入社してから約3年間エンジニアとして活動後、Mobageの事業責任者や新規事業の立ち上げにチャレンジ、2015年から人事を務めています。ゲーム事業のHRBPを経て2020年からはヒューマンリソース本部長としてDeNA全社の人事領域を統括している形です。

DeNAはゲーム事業のイメージが強いですが、実はゲーム以外にもスポーツ事業やヘルスケア事業、メディカル事業、それからライブストリーミング事業など多角的に展開しています。

ゲームクリエイターや元プロ野球選手、製薬会社出身者など多様なバックグラウンドを持った人材がいますので、人事全体を見るのはなかなか刺激的です。今日はよろしくお願いします。

経営的思考と組織文化

「経営的思考」とは何か

水谷 本日は「組織をつなぐ人事だからこそ持っておきたい『経営的思考』」というお題ですから「経営的思考」とは何か、という話を最初にしたいと思います。経営的な思考というのは、現場的な思考との対比における視野の広さや視界の高さを指すのではないか、と考えています。

人事の仕事をしていると流行りのモノに飛びついてしまったり、自分としては取り入れたくないんだけれども、上司から「これいいじゃない、取り入れようよ」と言われ、やらざるを得ない、というケースがありますよね。

たとえば数年前に「ティール型組織」が流行しました。ティール型組織はフィットする企業にとって非常に良いと思いますが、一方でフィットしない企業にとっては会社がダメになる要因にもなりえます。

今日のテーマにもなっている人的資本経営も、自社に合うなら取り入れるべきだし、合わないなら取り入れるべきじゃない。人事は合う・合わないを判断する感覚を持つべきだと考えていますが、菅原さんはどう思われますか?

菅原 おっしゃる通りで、合うものを取り入れ、合わないものは取り入れないという取捨選択の軸を持っている人事は強いと思います。

取捨選択の軸が経営的思考であり、それが何かと言えば自社が目指すミッション・ビジョン、経営戦略に照らしてフィットするかどうか考えられるということなんですね。人事としてはそこを理解していなければならない。

水谷 そうでないと、「ごった煮」になってしまいますよね。

菅原 そうなんです。流行りに追いついていこうとすると、合う・合わないを問わずすべてを取り入れることになってしまうので「結局、何をしたいの?」という状態になってしまう。

水谷 そうですよね。ですから今日は、人事が持つべき経営的思考について理解していただけるよう、事例や経験を元にお話したいと思います。

組織文化に関する強烈な原体験

水谷 まず、私が在籍していたリクルートについて紹介したいと思います。

当時、リクルートの組織をもっともよく表す言葉が「自ら機会を創り、機会によって自らを変えよ」でした。私はこの言葉を25歳で知りましたが、若いうちに知っておいて良かったと思っています。

自ら機会を創れ、と言われているわけですから機会がないのは自分の責任ということになります。つまり言い訳ができないわけです。

リクルートでは「自ら機会を創り、機会によって自らを変えよ」が根幹として、人事制度にも紐づいていました。たとえば、今はありませんが、当時は30歳になると1,000万円の退職金が出るという制度があったんです。

そして退職金は38歳をピークに以後は下がっていくという仕組みでした。30代と言えば企業内で脂が乗っている時期ですから、そのタイミングで退社を助長する施策ってなかなか導入しづらいじゃないですか。

けれども、リクルートでは自分のキャリアを考えてやりたいことがあれば、チャレンジするために背中を押す仕組みを整えていたんです。「辞めてほしいのか?」と誤解を招きかねない施策だと思うんですけれども、そういう話ではなく、自分で機会を創りチャレンジすることを支援する仕組みだったんですね。

菅原 自ら機会を創ることで自らを変えようというコンセプトがあるからこそ、制度になっていたんですね。

水谷 リンクアンドモチベーションについてもご紹介したいと思います。同社には「世の中の1年はリンクアンドモチベーションの3ヶ月」という言葉があります。

「時間は長さではなく濃さだ」と考えていたからです。3ヶ月ごとに1年が経過する、つまり1年で4年経ったと4倍速で捉え、24時間365日の濃度を高めていく考え方だったんです。

例えばアルバイトで、暇な時間で何もすることがないと時間が経つのが遅く感じますが、忙しくしているとあっという間に過ぎてしまいますよね。時間の濃さの違いとはそういうことなんだと思っています。

リンクアンドモチベーションでは「世の中の1年はリンクアンドモチベーションの3ヶ月」というフレーズに基づいて評価や昇給・昇格も3ヶ月ごとに行っていました。年末年始休暇も3ヶ月に1回という扱いで、「ピットイン休暇」という名称で四半期ごとに土日とあわせ5連休くらいの休みがあったんです。

ただし、時間の濃度を高めるための考え方なんだと理解できていないと「ピットイン休暇」は単なるラッキーな休暇で終わってしまいますし、昇給・昇格が3ヶ月ごとということは降給・降格も3ヶ月ごとになりますから、「ドライだよね」とネガティブな捉え方をされてしまう可能性もあったわけです。

組織コンセプトがすべての人事施策の根幹となる

DeNA「永久ベンチャー」

水谷 リクルートの「自ら機会を創る」、リンクアンドモチベーションの「3ヶ月が1年」というコンセプトはまさしく経営的思考だと思います。DeNAさんにも「永久ベンチャー」という組織コンセプトがありますよね。

菅原 そうですね。「永久ベンチャー」はDeNAを創業した南場が以前からずっと言い続けています。今では2,000人を超える大きな組織体になっていますが、どれだけ事業や組織が大きくなろうともベンチャーとしての気質を失わずにチャレンジしていきたいという強い思いがあるんです。

ですから組織コンセプトとしては「永久にベンチャーであろう」を標榜しています。「挑戦を尊ぶ」「変化に柔軟であろう」「成長に貪欲であろう」「スピーディーであろう」「球の表面積(権限委譲)」といった考え方をまとめて「永久ベンチャー」と表現しています。

DeNAの多角的な事業展開も、永久ベンチャーという組織コンセプトに基づいた多様な人材・組織によって成り立っているんですね。永久ベンチャーという組織コンセプトが事業展開を導いており、一方で多角的な事業展開がこの組織コンセプトを強化しているという関係性になっているのかな、と感じています。

水谷 「永久ベンチャー」をはじめて聞いた時、とても良い言葉だなと感じた記憶があります。ベンチャー企業が大きくなっていくと、いつのまにかベンチャーらしさを失ってしまう場合がありますよね。

また規模が大きくなると周囲からもベンチャーとは見られなくなってしまう。でも、大規模になってもマインドはベンチャーだということなのだと思います。

菅原 ベンチャー企業が大きくなると、組織構造としてピラミッド型に移行するケースが多いと思いますが、DeNAは球体の組織をイメージしているんです。上下ではなく、全員が球の中で面積の差はあれ、どこかを担っているという意味で、役割の大きさについては「球の表面積」と表現しています。

上下の関係ではなく、ひとりひとりが球の表面積なので、誰が言ったかではなく何を言ったかが重要ということです。球体の組織としている背景には、「DeNA Quality」という我々が共有する価値観が影響しています。

DeNA Qualityの中には「『こと』に向かう」とあるんですね。「『人』に向かう」の対比で使われることが多いです。ピラミッド型組織だと上司の顔色を窺ったり意見に左右されがちですが、それらを是とせず、ひとりひとりが球の表面積なんだから思ったことは言え、ということです。

行動規範にもしっかりと反映されていますし、掲げているだけでなく皆が実践している。上司がこう言っているから従うんだ、じゃなくてこれが面白いからやるんだ、という形で発案していくので、挑戦が促されている面があるのかな、と考えています。

水谷 「永久ベンチャー」というコンセプトだからこそ機能している人事制度はありますか?

菅原 DeNAには「シェイクハンズ」という社内公募に近い人事制度があります。ゲーム事業を担当しているが、どうしても野球の仕事をしたいと思って手をあげた従業員と野球事業部が合意すれば異動できてしまう、という制度です。

上司も人事も関与せずに、両者が合意したならいいじゃないか、という仕組みなんです。それぞれの個性や夢中になれることをリスペクトして、上司や人事が会社の意向を挟まずにチャレンジしてもらおうよ、というベンチャーとしての姿勢を表しています。

また、異動までは望まないけれども「あれをやってみたい」という場合の制度も用意されています。「クロスジョブ」という社内副業制度で、ゲーム事業は好きだけれど野球も手伝ってみたい、というケースに対応しています。

水谷 一般的に「シェイクハンズ」のような制度では、出ていかれる側の事業部長が止めるケースも発生しがちだと思いますが、DeNAさんにそれはないのですか?

菅原 本人が挑戦しようと言っているわけですから、皆で応援しようよという空気の方が根強く、裏切られた的な反応はあまりないですね。ただ、ヒューマンリソース本部の本部長である私にとってもスタッフに出ていかれてしまうリスクがあります。

ですから、皆が夢中になって仕事できる環境や仕事の任せ方を用意できなければ出ていかれてしまうんだ、という意識につながっているという面もあるんです。日頃から皆に夢中になってもらえるよう努力するし、夢中になれなければ社内で別の業務を担当してもらうことで、さまざまな事業に取り組んでいるDeNA全体が盛り上がれば嬉しいですから。

水谷 副業の話も、社外で副業されるより社内でやってもらった方が会社としてはいいですよね。

菅原 実は社外での副業も解禁しているんです。最初は社外の副業を認めたらそっちの方が魅力的で辞めてしまうんじゃないか、と心配していたのですが、副業してみたら逆にDeNAの良さがわかった、と言って本業のパフォーマンスが上がったという例が多い。

ですから、最近はどんどん社外副業しなさい、という方向性になってきていますね。それらも含めひとりひとりが自律的にチャレンジしていける環境を後押しするというサイクルを意識して作っています。

AnyMind「Like the Olympics」

水谷 AnyMindの組織コンセプト「Like the Olympics」も紹介させていただきます。AnyMindは2016年に設立した会社なので現在7年目とまだ若く、社員の仕事へのエネルギーが有り余っているんですね。

ですから、エネルギーをより引き出して成果につなげていくため、健全に競争しようというコンセプトとして「Like the Olympics」を設定しています。13ヶ国・地域に1,300人の社員がいますから競争環境としてはとてもおもしろいんです。

この事業では誰が一番売り上げたの?達成率が高いの?などをランキングにしています。2位の人は「来月は絶対1位になってやる」と思いますし、ランキング外の人は「絶対ランクインするぞ」となる。

競争によってギスギスするのは良くありませんが、Olympianの方々ってそうはならないじゃないですか。共に創ることもするし、チームワークも大事なんだけれども、競争を軸に据えて会社を盛り上げていきましょう、という形なんです。

菅原 グローバルな競争ですね。Olympianと同じように健全にとは言いながらも、競いあっていく中でギスギスしないのかな?と思ってしまいますが、そうならない工夫はあるんですか?

水谷 基本あまりないんですよね。個人の成長やお客様への価値提供の拡大を目的に競争しているので、その背景が理解されていればあまり起きません。もちろん少しでもおかしなことがあればちゃんと注意しにいく。ドーピングは駄目だよ、ということです。

菅原 リンクアンドモチベーションでは3ヶ月単位ということでしたが、AnyMindのOlympicsはどのくらいの単位なんですか?

水谷 月とクォーターと年ですね。毎月順位が出るし、四半期や年でも出ます。今日、会社に戻ったら10月の締め会がありますので、ゴールドは誰、シルバーは誰、と発表があるんです。

菅原 ゴールドやシルバーなどのランキングと評価制度はつながっているんですか?

水谷 業績は評価に直結しますね。ピアボーナスのようなランキングは間接的な影響に留まります。周囲からの感謝の声も取得しており、昇格を考える際には人望があるのかは間接的には評価に影響しますね。

終わりに

水谷 組織づくりでうまくいかなかった施策や考え方についてもお聞きしてみたいと思います。

菅原 制度ではありませんが、バリューに相当する「DeNA Quality」を定期的に刷新する際、大きく変えたときほど「おや?」と思う人がいて、辞めてしまう人が出てきたりするんですね。

考え方が違うから船を降りてしまうのは仕方ないんですけれども、刷新によって事業にとって痛手になるような離脱が出てしまうと、もう少し別のやり方があったんじゃないかなどと考えてしまいます。評価制度の変更もそうですよね。

水谷 100%の社員が賛同してくれる制度はなかなかないですよね。

菅原 従業員のスタンスがわかれる方が施策としては効果的だとは思いますが、あまり急進的になりすぎると痛いのでマイルドにやっていく方がいいんだな、という学びもありました。強いて言えば無風だった施策が失敗だったのかな、と思います。

水谷 ありがとうございます。大変楽しかったです。あっという間でした。

菅原 水谷さんのお話はすばらしくて、私にとってもあっという間で、1時間が1年という感じでした(笑)

水谷 では、これで終了とさせていただきます。ありがとうございました。

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