採用にもマーケティングの要素が必要となる昨今、採用へのマーケティングを「なんちゃって」で終わらせないために、私たちは何を意識して取り組むべきなのでしょうか。
採用と組織づくりの意義を「Reframe(再定義)」するオンラインイベントFUZE2021のセッションDでは、ラクスル取締役CMO田部氏とLINEの青田氏をお招きし、本当の“採用マーケティング”について語っていただきました。
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採用に役立つ「マーケティング」の考え方とは
これからの採用に欠かせない、マーケティングの基本的な考え方をご存知ですか?
求職者が求める価値観が多様化し、優秀な人材層の獲得競争が激化する現代において、自社に最適な人材を採用するためには「マーケティング」の視点が欠かせません。
そこで、採用担当者なら知っておきたいマーケティングの基本的な考え方を、1つの資料にまとめました。
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▼ゲスト
ラクスル株式会社
取締役 CMO / ノバセル事業本部長
田部 正樹 氏1980年生まれ。大学卒業後、丸井グループに入社。主に広報・宣伝活動などに従事。2007年テイクアンドギヴ・ニーズ入社。営業企画、事業戦略、マーケティングを担当し、事業戦略室長、マーケティング部長などを歴任。2014年8月にラクスルに入社。マーケティング部長を経て、2016年10月から現職に就任。2018年より、これまでのラクスルの成長を約50億かけて事業成長を実現してきたマーケティングノウハウを詰め込んだ新規事業「ノバセル」を立ち上げ、事業責任者を兼任している。
▼モデレーター
LINE株式会社
People Partner室 People Experience Designer
青田 努 氏リクルートグループに通算10年在籍し、リクナビの学生向けプロモーション、求人広告の制作ディレクター、自社採用担当を務める。その後、アマゾンジャパン、PwCなどで人事マネージャー(主に中途採用領域)を経て、『日本の人事部』では、人事・人材業界向け講座、人事の交流会・勉強会組織、HR Techメディアなどを立ち上げる。2017年にLINE入社し、Employee Success室副室長などを経て、現職。
採用マーケティングで今何が起きているのか?
青田 本日はよろしくお願いします。「なんちゃって採用マーケティングからの脱却」という、たいへん刺激的なタイトルですが(笑)。その心は次のような問題意識があるからだと思っています。
人事に採用マーケティングを取り入れる会社が増えたが、その実態・実情はそれらしいことをしてはいるが、少し違う「なんちゃって採用マーケティング」に陥っている会社が少なくないのではないか
そこで今回は、
1.採用シーンで今何が起きているのか、なぜ起きているのか、何が問題なのか
2.そもそも「マーケティング」とは?「採用マーケティング」とは?
3.“なんちゃって”採用マーケティングから脱却するには
をテーマに、ラクスルの田部さんとディスカッションしていきたいと思います。
採用マーケティングのこれまで
青田 まず、少し時代をさかのぼって求人広告のこれまでを概観してみたいと思います。
・新聞の時代
新聞の広告というと商品広告以外は「尋ね人」が主でしたが、1900年ころから「人材募集」が登場します。その「名広告」をいくつか拾ってみました。
▼これまでの求人広告における「名広告」 |
青田 南極隊員の募集には5,000人を超える応募があったそうです。
田部 SONYのキャッチもインパクトがありますが、再現性があるのは創業者の哲学を語っているHONDAのコピーですね。
・求人雑誌の登場 1962年
青田 新聞の時代が続く中での新しい動きは、1962年にリクルートが出した求人情報誌『企業への招待』です。これは無料で学生に配布されました。これをきっかけに、フリーペーパー、フリーマガジンの求人媒体が数多く発刊されるようになりました。
・Web求人媒体の登場 2000年~
インターネットが普及した2000年以降は、リクナビ、リクナビNEXTなどのWeb求人媒体が登場し、多くの学生や転職希望者がサイトに登録するようになりました。
・Wantedly、SNSの活用 2010年~
2010年以降は、Web媒体にスカウト機能や自社の魅力を発信するブログ機能を備えたWantedlyが登場し、新しいムーブメントを生みましたよね。SNSの活用もこの頃からの大きな動きです。
・オウンドメディア、noteなどの活用2016年~
ここ数年では、企業が採用専用のオウンドメディアを立ち上げる、noteで経営トップが候補者に語りかけるなど新しい動きが見られます。
ここ10年間の採用トレンド
青田 ここ10年の変化をまとめると、次のことが言えると思います。
- プロモーションツールの多様化
- プロの手を離れた発信(民主化)
- チャレンジコストの低下
- データによる可視化
田部 自分たちがスカウトできる時代になり、1to1のアプローチが可能になったのが最近の大きな変化ですね。そこで重要になったのが、自分たちが選ばれる価値とは何かを採用側がきちんと把握したうえでのアプローチだと思います。
「そもそもマーケティングとは?」から捉え直さないと“なんちゃって”採用マーケティングにはまってしまう
青田 採用マーケティングとは何かを考えるためには、そもそもマーケティングとは何かから考え直す必要がありますね。
プロモーションだけがマーケティングではない
田部 そもそも日本では、マーケティングというとプロモーションだけを指すことが多いと思います。つまり、集客・売上をあげる視点に限定されがちなのです。採用に置き換えるなら「リード数を担保するのが仕事で、それ以外にはタッチしない」という姿勢です。
しかしグローバルのマーケティングでは、ビジネスが成功するための戦略立案と実行、つまり経営そのものと捉えられています。採用マーケティングにおいても、このような広義の捉え方が必要だと思います。私が採用マーケティングをする人に問いかけたいことは次の2つです。
- マーケティングをプロモーションだけだと思っていませんか?
- 採用マーケティングを「認知拡大やSNS利用」だけだと思っていませんか?
多くの人が「作ったものを売る」ことがマーケティングだと考えていますが、より広く「売れるものをつくる」をベースに考えるのがマーケティングなのです。
「顧客に選ばれる理由」を理解することが大切
田部 なんちゃってマーケティングになるかならないかは「自分たちの事業・サービスが顧客に選ばれる理由を理解しているか」にかかっていると思います。
日本語訳のないマーケティングの言葉をあえて訳すとすれば「商売」ではないでしょうか。お店(企業)が選ばれる理由をきちんと掴んでいるのが本当の商売人(マーケター)です。
「誰でもいいから買ってほしい」ではなく、「買ってもらいたい人に買ってもらう」のが長続きする商売だと思います。採用に置き換えるなら「どうして弊社に来てくれたのか」といった本当の理由を、意外と採用担当者が理解していない。5~6個出てくるが、1つあるいは2つの明確な理由と言われると答えられない人も多いのではないでしょうか。
自社が候補者に選ばれる理由を把握していないと、コンテンツを作っても良い反応は得られません。ブログを書くからよいのではなく、書いている人や書いていることが会社の独自性を理解し、表現できているから反応があるわけです。成果が出ないときは、上面の手段だけを真似しているのではないか、と振り返ってみることが大切だと思います。
青田 周りから見えやすいもの(手段)を真似するのではなく、うまくいっている会社はその前段階をきちんとこなしていますよね。
自社を選んでもらうのではなく「選ばれてあたりまえ」をつくるのが採用マーケティング
田部 マーケティングで実施すべきなのは、商品を売ることではなく、売れるようにすることです。言い換えると、顧客に選ばれる必然(選ばれて当然の理由)をつくること。採用に置き換えるなら、自社を選んでもらうのではなく、選ばれてあたりまえの状態をつくるのが採用マーケティングです。
「どうやって?」の前に「 誰に?」「何を?」を考えるべき
田部 マーケターが戦略を立てるときは、次の3つの「?」について考えます。
●誰に?WHO : 誰をターゲットにすると効率的なのか |
大切なのはHOWに行く前に、WHO(誰に)とWHAT(何を)考え抜くことで、これは採用についても同じです。採用のミーティングをするとすぐに「どれだけの予算で」「どの媒体で」「いつまでの期間に」という話になりがちです。
その前に「どんな人が欲しいのか」「候補者に何を伝えるのか」「自社は候補者に何を提供できるのか」をよく考えることが大切だと思います。それが明確になっていれば、HOWはみずから導き出されるはずです。
また、候補者が何を重視しているかを採用側が勘違いすることも多いため、面接で得られた生の一次情報をフィードバックしてPDCAを回していかなければなりません。
青田 マーケティングも採用マーケティングも「自社ならでは」を探す、つくることがベースになるのですね。それには採用担当者だけは限界があり、経営陣の参画が欠かせません。
田部 たとえばリクルートは、起業することを奨励して採用するという離れ業的なこともしています。こういった太い柱のある仕組みを、経営陣と一緒に作っていくのが採用マーケティングの醍醐味ではないでしょうか。
“なんちゃって”採用マーケティングから脱却するには
青田 ここからは、採用マーケティングが“なんちゃって”に傾いているかも、と思ったときに、そこからいかに脱出するかについて田部さんからヒントをいただければと思います。
採用の4PにはPlaceではなくPeopleが入る
田部 マーケティングの4Pと言われるのがProduct、Price、Place、Promotionですが、私は採用の4Pは、PlaceではなくPeopleだと考えています。
採用においては、Peopleつまり「一緒に働く人」が誰かを候補者にアピールするのが重要です。新卒はもちろん、転職でも誰と働けるかを重視する候補者が増えている。そのため人事だけが表に出て採用を進めるのではなく、なるべく早い段階でさまざまな機会を設け、現場の人に会わせることが大切だと思います。SNSでもとくにTwitterは人柄とか社風が出るので、私たちも積極的に利用しています。
青田 たしかに、少し前までは「会社に入って何をやるか」が重要でしたが、いまは「誰と一緒に働くか」も重要なファクターになっている気がします。
田部 言い方を変えると「誰と一緒に成功したいか」ではなく「誰と一緒なら失敗してもいいと思えるか」です。Peopleをどう採用の強みにしていくかは採用マーケティングの大きなテーマだと思います。
メディアは最後に考える
田部 採用マーケティングというと「どのメディアを使おうか」から入る会社が多いのですが、採用マーケティング=メディアと考えているうちは上手くいかないと思います。自社の事業やビジョン、誰に何を選ばれるのかの戦略、どう見せるかのクリエイティブを立てたうえでメディアを選択するのが順序です。
上の3つをおざなりにして採用マーケティングは成り立ちません。たとえば、「あの会社はWantedlyでブログをたくさん書いているからたくさん応募が来ている」と思い込み、1日3本書いて月90本のリリースを目指す目標を立てるといったことでは「なんちゃって」から抜け出せていません。
青田 自社の独自性や選ばれる理由をしっかり把握すれば、コンテンツの方向やメディアの選択も見えてきますね。
採用はスピードが命
田部 採用市場での自社のプレセンスが弱いうちは、たくさんリードを取るため母集団形成に注力すると思います。これは仕方ないと思うのですが、なるべく早く採用プロセスの各フェーズを数値化して、どこに問題があるかを把握することが重要です。
また、採用はスピードが命で、候補者の温度感が高いうちにクロージングまでつなげる必要があります。スカウトからオファーまで2週間以内が理想です。
私が一次面接に出た場合は、いいなと思う人がいたらその場で役員面接を入れることもありました。社内の調整や会議で2ヶ月も3ヶ月もかけていると、候補者の熱も冷めてきます。採用のオーナーは一次面接に出て判断していくべきだと思います。
青田 熱も冷めますし、時間が経つうちに他の選択肢もいろいろ入ってきますから。決定権のある人は後段階で入ってくるのが普通ですが、そこも脱却する必要がありますね。
会社の価値は半年前、1年前と同じではない
田部 採用マーケティングをするうえで気を付けたいのは、「会社や事業の価値、候補者に選ばれる理由は変わり続ける」ことです。担当者がその変化を把握していないと経営者の認識とズレが生じます。「社長、この前そう言ったじゃないですか」は通用しません(笑)。
青田 その意味でも、採用マーケティングに携わる人は、自社の成長のフェーズを理解する必要がありますね。
青田 最後に田部さんから、日々採用で苦労されている担当者の方に一言いただきたいと思います。
田部 繰り返しになりますが、採用担当者の方は次の3つを自分に問いかけながらお仕事を進めていただきたいと思います。
- 自社のサービスが候補者に選ばれる理由を本当に理解しているか?
- 自社のサービスを選ぶ候補者の属性(ペルソナ)を明確に理解しているか?
- 採用マーケティングをプロモーションだけだと思っていないか?
青田 本日は貴重なお話をありがとうございました。
時代の変化に伴い、採用への考え方はアップデートしていく必要があります。
以下の記事では、これからの採用に必要な基本的な考え方や、採用のトレンドについてわかりやすくまとめています。ぜひ合わせてご覧ください。
【採用の新常識】上手くいかない採用から脱却するために必要な考え方
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