採用広報を強化する企業が増え、採用市場にさまざまなメディア、手法、コンテンツがあふれかえる昨今です。その中で採用担当者は、ともすると手段に気を取られて、採用広報の本質を見失っていないでしょうか。
FUZE2021は、各界をリードする著名人たちと採用と組織づくりの意義を「Reframe(再定義)」するオンラインイベント。セッションAでは、採用広報のフロントランナーによる議論を通じて、候補者に対する理想的なコミュニケーションのあり方を探りました。
▶︎採用担当者なら知っておきたいマーケティング知識を公開中|資料を無料ダウンロードする
採用広報を始めたいけど、何から始めれば良いかわからない方へ
Wantedlyなら、誰でも簡単に会社のページや採用ブログを作成することができます。
作成したページはGoogleの検索結果の1ページ目に表示されやすく、オウンドメディアとしても活用できます。
まずは手軽に採用広報を開始したい方、ぜひ資料をダウンロードして詳細を確認してみてください。
▼ゲスト
株式会社メドレー 執行役員
加藤恭輔 氏2006年一橋大学商学部卒業。優成監査法人に入所し、公認会計士として監査業務に従事。2010年クックパッド株式会社に経営企画担当として入社し、2014年に会員事業所管の執行役員に就任。2016年より株式会社メドレーに参加し、執行役員として主に採用と広報を担当する。
株式会社メドレーのおもな事業
●オンライン診療やクラウド型電子カルテなどの医療プラットフォーム事業の運営
●医療ヘルスケア領域の人材採用システム「ジョブメドレー」の運営
▼モデレーター
ナイル株式会社 カルチャーデザイン室 マネージャー
渡邉慎平 氏2013年に新卒入社、6年間Webマーケティングに携わり、300社以上のWebコンサルティングを担当する。2018年 人事に移動し、全社の採用と広報を所管。2021年9月からカルチャーデザイン室立ち上げに参画し、全社広報と採用企画を担当する。
ナイル株式会社のおもな事業
●デジタルマーケティングの支援
●アプリメディアApplivの運営
●マイカーのサブスクリプション「おトクにマイカー 定額カルモくん」の運営
メドレーが取り組んだ採用広報の歴史
渡邉 本日はよろしくお願いします。まずは株式会社メドレーの採用広報への取り組みをメインに伺う中で、弊社ナイルの活動についても紹介するスタンスで進めたいと思います。まず加藤さんがメドレーで取り組んできた採用広報について、概略をお話しいただけますか?
最初に目指したのは、メドレーを「医療×ITのリーディングカンパニー 」として認知してもらうこと〈2016-2018年〉
加藤 2016年に私が入社したときは90人くらいの会社でした。当時は「オンライン診療」という話題性の高い事業を立ち上げてはいたものの、世間的な認知はまったく追いついていない状況でした。そこで、まずは知ってもらえることにフォーカスし、会社への関心を持ってもらえるような施策を考えたんです。そこで目標としたのが、次の2つです。
・「医療×ITのリーディングカンパニー メドレー 」としてメディアなどで紹介されるようになる
・スタートアップの採用市場においてメルカリさんやラクスルさんと並ぶような勢いや存在感を醸成する
具体的には、採用市場での存在感と勢いを作るために、次のような施策を行いました。
・Wantedlyのストーリー機能を使って「私がメドレーに入社した理由」を連載
・「週刊メドレー」「土曜日に読むメドレー」など7つのブログを運営してコンテンツを連載
・個人のFacebookで「月間活動報告」を詳細にシェア
・エージェントさん向けの説明会を定期的に開催
「私がメドレーに入社した理由」では総勢50名の社員の入社理由ブログを掲載しており、それ以外のコンテンツも含めて現在までに総計120万近いPVを獲得しています。
また、採用市場を超えた世間一般の認知を得るために、講演会の開催やインターネット上での対談記事の掲載、TV・ラジオ・新聞・雑誌への露出、取締役である豊田の書籍「僕らの未来をつくる仕事」を発刊したりしました。
スタートアップフェーズから脱却し、メドレーの社会的役割や業界の課題が伝わる啓蒙活動を実施〈2018-2021年〉
加藤 2009年の創業から10年目にあたる2019年からは、スタートアップフェーズから脱却し、医療分野などでの社会の公器としての存在感を高め、認知されることを目標にしました。この時期に採用市場で主な取り組んだことは、コンテンツの刷新です。
・コーポレートサイトを全面改訂して、トーンを赤から落ち着いた白に変更
・メドレーの12人のキーマンにインタビューして一挙掲載
・「動画で観るメドレー」10職種分を一挙掲載
・オンライン経済メディアNewsPicksに3つのコンテンツを連載
・クリエーター向けに特化した採用冊子を制作
・企業バリュー「メドレーが大切にしている価値観」の刷新
また、2019年に東証マザーズへ上場し、2021年にはNTTドコモさんとの資本業務提携を行いました。この間に、Forbes Japan「日本起業家ランキング2020」で第3位に選出され、2021年度の「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業」にも選定されています。
“採用狭報”をかかげ、候補者に“会社の実態”を知ってもらうナイルの採用広報
渡邉 続いて、ナイル株式会社の取り組みを紹介します。ナイルはジャンルの違う3つの事業を運営しているため、入口によって会社の見え方が違うイメージギャップがありました。そこで、はじめは会社の実態を候補者の方に知ってもらうために「ナイルのかだん」というオウンドメディアを立ち上げました。それが2018年からの“採用狭報”の時代です。
「ナイルのかだん」では、人事評価制度や給与の考え方、採用面接でどこを見るかなどをオープンにして、そのうえで候補者と向き合うことが方針でした。
2019年~2020年はいわばデータドリブンの時代。オウンドメディアの遷移率などのデータを集計できるようにし、そこからKPIを抽出し施策につなげていきました。また、「Twitter道場」という現場社員主導による施策が、採用に結び付いた動きもあります。
2021年からは、ようやく採用広報に本質的に近づくWeb施策、SNS施策ができる時代に入りました。単にブログを発信するだけではなく、認知度・露出度・読了率・読了数などの指標にもとづく取り組みが行えるようになりましたね。
採用広報の黎明期から現在までの変遷を振り返る
渡邉 本日のテーマ”採用広報の本質”に入る前に、2018年頃からクローズアップされはじめた「採用広報」の現在までの変遷を振り返ってみたいと思います。下記は私なりにまとめた変遷の4つのフェーズです。
いろいろ突っ込みどころはあると思いますが(笑)。それぞれのフェーズでの加藤さんの実体験などをお話しいただけますか?
加藤 私は2017年から採用担当になりました。当時、採用はまったくの未経験だったのですが、まず行ったのは採用目的に特化した資料を一から考えて作ること。会社概要をそのまま使って説明するのでは、候補者の方の心に残らないと思ったからです。
また、採用担当になる際、経営陣に「KPIマネジメントをしないでください」とお願いしました。それは、適切なKPIが何なのか当時わからなかったのと、大切なのは、「2年後には〈医療×ITのリーディングカンパニー 〉がメドレーの枕詞になっている」といった、「いつまでに何をするか」のゴールだと考えたからです。
良い人材が採用できたかどうかの成果が明らかになるのは、少なくとも1年後、あるいは2年後。なので、コンテンツのPV数などの短期的なKPIがそれにどう作用するのかは、実際わからないと思っています。適切なKPIを設定するのに時間をかけたり、悩んだりするよりも「ゴールを達成するために必要なコンテンツは何か」というアナログな発想の方が当時の私には大事でした。
コンテンツを作る前にゴールイメージを設定することが重要
渡邉 2018年頃からの拡大期、2019年からの浸透期は、noteやWantedlyのストーリーなどのブログコンテンツが増えたときでした。当時、加藤さんにとってどのようなことがテーマでしたか?
加藤 当時はいわばコンテンツの乱立時代。「大量のコンテンツの中に埋もれない本当に読まれる記事を書くにはどうしたらよいか」というテーマに各社が苦労していたと思います。埋もれないためには、「自社のどこを見せたいのか、自社が目指すものをどう表現するのか」というゴールイメージの設定と、「世間にとって面白いコンテンツは何か」を考え抜き、それらを掛け合わせてコンテンツを発信することが重要だと私は思っています。
もう1つ、採用広報に携わる者にとって重要なのは、内部の人間としての自社への主観イメージと世間から見た客観イメージを、自分の頭の中で高速回転させること。自分たちが魅力だと思っていることが、候補者の方や世間から見たら「たいして面白くない」と思うのはよくあることです。自社に対する熱量が大きいのは良いことですが、自社のことを知らない候補者の方に対してその熱量は本当に伝わるのか、立場を変えて内省し続けなければいけないと思います。
“本質志向の採用広報”とは、手段からはじめずにゴールイメージを作り、それを目指すこと
渡邉 ここからは今日のテーマである「本質志向の採用広報」とは何かについて、加藤さんのお考えを伺いたいと思います。
加藤 ここまでお話したことと重なるのですが、採用広報の本質は次の2つにつきると考えています。
- ゴールイメージをきちんと作り、何を目指して広報するのかを明確にする
- 手段からはじめない
この2つからズレずに候補者の方が欲しい情報は何か、心が動く情報は何かを掘り下げていくのが採用広報だと思います。
自社の魅力を言語化することが重要
加藤 ゴールイメージを設定したら、次に重要なのは自社の魅力を言語化することだと思います。私が採用広報のご相談をいただく際には、この9つのステップに沿って進めるようアドバイスさせていただいているのですが、この図表のでいうところのStep2と3の部分です。
採用目的の会社紹介資料を作成したり、募集要項やブログコンテンツを作るより前に、まず自社に今ある魅力と、市場の課題やその解決策、今後の展開やカルチャーの特長などを、装飾のないWordのページに10枚程度書いてみることが重要です。その際、「候補者の方がわかりにくい専門用語を使っていないか」、「意味の伝わる日本語になっているか」についてよく吟味することがポイントです。吟味せずいきなり「きれいなスライド」にしてしまうのは推奨しません。「スライドにする」が「スライドに逃げる」「デザインに逃げる」になってしまう例が少なくないですから(笑)。装飾なしで力のある言語化ができれば、自社の魅力の解像度がグンとあがります。
渡邉 このステップを踏んでいくには採用担当者が頑張るだけでなく、経営トップの関与も重要ですね。
加藤 その通りですね。とくにStep1~3では経営者も参加しないと採用ブランディングはうまくいかないと思います。
自社の位置を見定め、時代が変わるたびに補正していく
加藤 こういう文章やスライドは、一度作ったり終わりというわけではなく、自社の状況や採用市場の環境が変わるたびに絶えず変化していきます。「自社が今どこにいて、将来に見据えているものは何か」を、時代が変わるたびに把握し直して補正していかなければなりません。どこまで掘り下げて内省できるかが、採用広報に携わる人の力だと思います。
見え方の悪い部分もきちんと理解することが大切ですね。「俺たち超イケてる」で突っ走るのはとても危険(笑)。採用担当者は会社の良いところだけではなく、課題も正しく理解し、必要なタイミングで候補者の方に伝える必要があります。でなければせっかく採用しても辞めていく人が増えることになりますから。
5年後10年後を見据えた話ができる人を社内に増やしていく
加藤 候補者の方に会社の5年後10年後を見据えた話ができると、話に深みがでます。これは採用担当者が話すだけでなく、事業部のマネージャーやリーダーが話せるとより効果がある。しかし、事業部長クラスでも目の前の仕事に一生懸命で、会社全体の先を見据えた話が苦手な人もいますよね。そういう人に、候補者の方に話してほしいゴールイメージをインプットするのも採用担当の仕事です。
また、文章にして伝えても魅力が伝わりにくい人だけど、会って話してもらうと面白いと思ってもらえるような社員もいます。そういった方はブログに登場してもらうのではなく面接に出てもらうなど、社内人材の適材適所での活用も大切だと思っています。
KPIの設定より本質的なものがある
渡邉 採用活動のKPIをどこに置くかで悩んでいる会社が多く、的外れなKPIを設定してしまい疲弊するケースも少なくないと思います。加藤さんはKPIについてはどのように考えていますか?
加藤 先ほども触れましたが、私自身採用や広報という領域においてはKPIをほとんど設定してきませんでしたし、正直どう使ってよいのか明確な答えは持っていません。それでよいとは言いませんが、採用においてはKPIマネジメントの有効性には制限があると思っています。
単一の職種で大量採用をする場合など、母集団が多く、各因数ごとの因果関係もある程度一定であるケースなどではもちろん有効なのでしょうが、たとえばメドレーでは100近い職種がある上に、1人採用すればクローズといった職種も多い。さらに期中における追加採用依頼や優先度の変更、退職対応など様々な要素が絡み合っています。型にはめたKPI設定を行うよりも、「必要な時に、必要な人がいる状態を作る」というゴールから必要なことは何かを個別に考え、スピーディーに実行に移すことの方が重要だと考えています。
もちろん、職種によってはKPI設定が有効なこともあると思いますが、少なくとも、採用においては事業のマーケティングのやり方をそのまま踏襲するのが良いとは限らないと言えると思います。
渡邉 本日は貴重なお話をありがとうございました。最後に、加藤さんからこのセッションを聞いているみなさまに一言いただきたいと思います。
加藤 採用広報で何をするかを考えるときに、「何を使うか」という手段から入る人がびっくりするほど多いです。しかしそれでは、その手段をどう使うかは見えてきません。その前に、候補者の方に持ってもらいたい自社のイメージをゴールとして設定し、そのゴール(自社の魅力)の言語化をぜひ実践していただきたいと思います。