地方の老舗メーカーに共感採用で人が集まる秘訣 – 中小企業こそ想いを伝える採用を –

都市集中や労働人口の減少により、地方の製造業では採用に課題を抱えている企業も少なくありません。そんな中、側島製罐株式会社は地方の老舗製造業という採用面でのハンディキャップにもかかわらず、Wantedlyを活用した共感採用で5人のベストマッチといえる人材を採用しました。

今回は、側島製罐株式会社の6代目の代表取締役である石川 貴也さんをゲストに招き、中小企業の製造業における共感採用についてお話をうかがいました。

今回のゴール

  • 地方×中小企業が活躍する人材を採用するためのエッセンスを理解する
  • 明日からの採用活動のヒントを得る

ゲスト
側島製罐株式会社 代表取締役
石川 貴也

愛知県出身。日本政策金融公庫、内閣官房への出向などキャリアを進め、2020年に側島製罐に入社。売上減少大赤字の苦境からスタートし、経営理念の策定や自己申告型報酬制度の導入などを通じて業績を回復させ、現在は指示命令や決裁の仕組みを無くしたティール組織で社員が生き生き活躍できる組織を目指している。パーパスドリブンな採用活動でWantedlyを利用。地方の製造業ながらこれまで4名の採用に成功している。

▼Wantedly Profile
https://www.wantedly.com/id/LWITBR1906

モデレーター
ウォンテッドリー株式会社
越石 翔子

新卒ではIT・Web・ゲーム業界に特化した人材紹介会社に入社。RA・CA両面の経験を通して数多くの求職者の転職先決定を実現。2018年1月にウォンテッドリーに入社。Onbordingやコミュニティの立ち上げ、カスタマーサクセスなどを経験し、現在はマーケティングチームにてオウンドメディアの運営やセミナーを開催。

▼Wantedly Profile
https://www.wantedly.com/id/koccey

側島製罐について

越石:本日はよろしくお願いします。まず側島製罐ついてご紹介をお願いします。

石川:側島製罐は愛知県海部郡大治町にある、従業員48名の製缶メーカーです。お菓子や海苔、カーワックスなどのブリキ缶・スチール缶の製造・販売をしています。

創業は1906年で、今年で118年になります。私は6代目の経営者で、プロフィールでご紹介いただいたようなキャリアを経て、いわば実家に帰る形で2020年に側島製罐に入社し、2023年に代表取締役に就任しました。

売上高は2023年12月期で7.9億円です。私が入社した2020年はコロナ禍のまっ只中、売上高もバブル期の15億円から三分の一の5億円に落ちていた時期でした。

創業:1906年4月
代表取締役:石川 貴也
資本金:4900万円
従業員:48名
売上高:7.9億円(2023年12期)
所在地:愛知県海部郡大治町
事業内容:ブリキ缶・スチール缶の製造・販売 

当時の採用課題


越石
:内外ともにハードな局面で入社されたわけですが、採用面での当時の課題はどのようなものでしたか?

石川:愛知県は自動車関係の有名企業が多く、その中で中小企業の缶メーカーでは、求人広告を出しても応募がほとんどないのが実情でした。

老舗の製造業という点でも、やりがいや裁量のイメージを持ってもらいにくい、古くさそう、雰囲気悪そうなどのマイナスのイメージを持たれがちという課題もありました。

また、苦労して採用しても定着せずに早期に退職してしまう人が多いのも課題でした。2020年の社員数は28名で、その後4年間に50人採用しましたが、現在の社員数は48名です。4年間で30人が退職したわけです。

社員のモチベーションを高めて定着をよくするためにプロの人材(マネジャー)を採用したこともありましたが、うまく機能しませんでした。マネジャーが旗振りをしても、社員に「やらされ感」がある限りは、仕事に向かう姿勢の本質的なところは変わらなかったのです。

採用でブレイクスルーを起こすためのマインド転換

越石:応募がない、やりがいを伝えられない、定着がわるいという手詰まりの状況を、あるマインド転換によって打破したとうかがっています。そのマインド転換とはどのようなものですか?

そもそも「要件定義」が採用のボトルネックではないのか?

石川:採用といえば、どういう人を採りたいかの要件定義から入るのが定跡とされています。しかし、採用を担当して2年ほどたったときに、そもそも「要件定義」が採用のマッチングを狭めているのではないか、という疑問がわきました。それが、マインド転換のきっかけでした。

「会社にはこんな課題があって、あなたにはこんなことをしてほしい」という要件定義は当然のようですが、それはあくまで会社の都合であって、会社の都合に100%マッチする人を探そうとするのはエコではないと思ったのです。

それよりも、会社や仕事にどんな問題があって、どう解決していけばよいのか、自分で問いを立てて、自律的に行動する人を採用することが重要なのだと考えました。

自分で問いを立てて、裁量と責任を持って行動する社員が増えることで、事業は発展するし、社員もやりがいを実感できるはずです。

マインド転換のキーワードは「優越的地位」の放棄

越石:自分で問いを立てて裁量と責任をもって仕事をする社員を増やすというのは、単に採用の方針というより、会社の風土、文化に関わることですね。

石川:まさにその通りで、まず経営者がマインド転換しない限り「社員が自分で問いを立てる」も「裁量と責任をもって行動する」も絵に描いた餅になります。

私は2021年から、自分の経営の備忘録も兼ねて、noteにつらつらと自分の思いを書いてきました。その記事の1つに2022年に書いた「優越的地位を手放すことがパートナーとなるための第一歩」があります。

経営者と従業員、上司と部下さらには発注者と受注者など、会社の仕事には優越的地位と劣位の地位がつきものとされてきました。会社を良くするには、まず私が「給料を払う側」「評価する側」という優越的地位を手放すことが大切だという思いを書いた記事です。

決められた時間に与えられた仕事をこなすという、地味な下請け製造業のイメージや枠に収まった企業風土を打破して、社員がやりがいを感じる会社にしていくことで、採用面でも他社との差別化が可能になると考えました。

パーパス策定の重要性

越石:裁量と責任をもって自律的に行動する企業文化の醸成や、採用面でのそのアピールのために必要だったのが、Mission 、Vision 、Valueの作成だったのですね。

石川:大企業の方は驚くかもしれませんが、側島製罐は創業以来115年間、明文化された社是も経営理念もない会社でした。

売上が右肩上がりの時代はそれでも良かったかもしれませんが、バブルの崩壊からコロナ禍まで売上が三分の一になるという状況下では、暗い会社の雰囲気を回転させるテコとなる「共通の価値感」がぜひ必要だと考えました。

1年以上の時間をかけて作ったのが次のような、Mission 、Vision 、Valueです。

MVV策定の詳しい経緯についてはnoteの「100年以上経営理念が存在しなかった中小企業で社員と一緒にイチからMVVを作った話」に書いていますので、ご一読いただければ幸いです。

記事のタイトルにあるように、弊社のMVVは「社員と一緒にイチから作った」のが肝で、プロジェクトのメンバーが本気で頑張ってくれたおかげで、可能な限り外部に依存せず、自分達の言葉を積み上げて全員が腹落ちするMVVが出来たと自負しています。

越石:プロジェクトのメンバーは会社指名ではなく、自発的に手をあげた人たちだったそうですね。

石川:はい、そうです。2021年の年初に全社会議でMVV策定の方針を打ち出し、5月にプロジェクトのメンバーを募集したところ、全部門から役職者全員を含む12人が参加してくれました。

たった1行ずつのMission 「世界にcanを」Vision 「宝物を託される人になろう」はプロジェクトのキックオフまでに私が作りました。その試行錯誤と艱難辛苦ぶりはnoteにつらつらと書いてあります(笑)

Mission とVisionを行動に落とし込む5つのValueは、選定や文案も含めてすべてプロジェクトメンバーが話し合って作成しました。

Value

・歴史を超える価値をつくろう
・自分の言葉で熱く語ろう
・まっすぐやろう
・高めあうために分かち合おう
・笑顔に全力でコミットしよう

こうして2022年の5月にMVVを記した「SOBAJIMA BOOK」が印刷され、採用においても活用されています。

Wantedlyでの取り組み

越石:採用でWantedlyを利用されたのは1年前からですね。

石川:はい。私が採用活動を始めた当初は、Wantedlyは製造業の採用には向かないという思い込みがありました。

しかし、出来上がった「SOBAJIMA BOOK」を見た知人から、「これがあるなら採用はWantedlyでやるべきだ」と強烈にプッシュというかゴリ押しされました。(笑)

実際に使ってみた現在は、真の意味で共感採用ができるのはWantedlyだけではないかと思っています。

越石:ありがとうございます!

石川:私のWantedlyでの採用活動は、応募者とチャットを重ねながらマッチングしていくことです。応募から面接、内定、入社まで、数カ月かけて50往復くらいの長文のチャットを重ねたこともあります。「死ぬほどチャットする」と称しています。(笑)

他の採用媒体にもチャット機能はありますが、応募する側と採用する側が水平な目線で、お互いに背伸びせずに意見交換できるのがWantedlyだと感じています。

越石:主にどんなことをチャットするのですか?

石川:何回かの面接が終わるたびに「今日はこう思いました」とか「こういうところをどう思いましたか?」などいろいろやりとりしています。「あのとき話せなかったけど」などお互いに補足し合うこともあります。内定が決まってからのラリーもけっこうあります。

越石:Wantedlyのページ(側島製罐株式会社の会社情報 – Wantedly)に掲載されているストーリーや「SOBAJIMA BOOK」のPDFなども応募の動機やチャットの話題になりそうですね。

石川:「”自己申告型報酬制度”という新しい未来への挑戦」とか刺激的なコンテンツもありますから。(笑)MVVについて話し合うことも少なくありません。

採用した人の活躍

越石:利用開始からWantedly経由で採用した社員は5人ですね。

石川:はい、そのうち4人が入社済みです。

越石:UターンやIターンで引っ越しして入社した方もいるとうかがっていますが、新入社員の方たちのマッチング度やご活躍ぶりはいかがですか?

石川:MVVを高い解像度で把握して、主体的に何かをするのが好きな人たちが入社してくれました。

たとえば、デザインの職業訓練校を卒業した後に、2022年7月に入社した木原 綾さん(25歳)は、広報やデザインを担当していますが、私が指示したわけでもないのに「採用パンフレットが必要だと思うので、こんなの作ってみました」と勝手に(笑)パンフレットを作って見せてくれました。

「この会社にはこれが足りない」という経営者的な視座で、まさに自分で問いを立てて行動してくれています。プレスリリースの作成や社内報の発行など広報的な仕事はもちろん、新卒採用に向けたワーキンググループの組織づくりや運営、若手社員の勉強会を企画するなどスーパーなんでも屋的な活躍ぶりです。

石川:2022年10月に入社した佐藤美樹さん(30歳)は、わが社ではめずらしいBtoC事業のブランドマネージャーをやっていて、缶の通販のショップを運営しています。彼女も私が知らないうちに何かのイベントに登壇していたりとか(笑)、まさに自律的に活動しています。

最近では、毎月東京に行ってショップオーナーの会に参加しているようです。「旅費もかかるから」と、そのついでに東京でBtoBの営業もやってくれたりしています。

越石:お二人とも自分でエンジンを搭載しているような頼もしい方たちですね。

石川:そうですね。あとの二人も、まだ入社数カ月ですが、木原さんや佐藤さん的なスーパーなんでも屋の片りんは既に表れています。

また、こういう新しい人たちのパフォーマンスが既存の社員のよい刺激になっている点も大きいと思っています。

採用において大事にしていること

越石:最後に石川さんが採用において大事にしていることはなにかをうかがいたいと思います。

石川:上図の3つ、嘘をつかない、焦らせない、対話するを大切にしています。

嘘をつかないは当たり前のことのようですが、会社の良いところだけを言うのではなく、うちの会社はこんな課題がある、こんな悪いところがある、ということも正直に伝えるようにしています。それを含めて、一緒に解決していきましょうというスタンスです。

焦らせないのも大事なことだと思います。このポストの穴埋めをしたいとか、早く仕事に就きたいとかでクロージングを急ぐと、どうしてもマッチングがおろそかになります。先ほどご紹介した4人でも3ヶ月から、長い人では半年以上かけて目線合わせをし、お互いの相性を判断しています。

対話するは先ほどお話しした通り、Wantedlyのチャットでできるだけカジュアルにフラットにたくさん会話するようにしています。チャットのテキストコミュニケーションでも人柄はうかがい知れるし、面接の会話とのギャップが見えてくることもあります。

越石:本日は示唆に富む貴重なお話をありがとうございました。

質疑応答

Q MVVの策定の呼びかけに社員が自主的に応えてくれた秘訣は?

石川:最初の全社会議ではみんなポカンとしていましたが、「経営を改善したい」という発想ではなく「みんなまじめに働いているのだから、もっと楽しく働けるはずだ」ということを言い続けるうちに、少しずつ共感してくれる人が増えてきました。

Q 職種の違いによる共感の齟齬や意識のギャップはありますか?

石川:社内コミュニケーションツールではSlackを使用していますが、ダイレクトメールは基本的に禁止で、全社員がどのグループの会話も見られるようにしています。それによって他の職種、チームの仕事内容への興味や理解、共感も広がりつつあると思います。

Q 中小企業は給与などの条件が採用のネックになりがちですが、雇用条件のすり合わせなどはどうしていますか?

石川:前職よりは給料が下がらないことを基本にすり合わせしています。また、ストーリーにも書いているように、わが社は昨年「みんなで経営 自己申告型報酬制度」と銘打った制度を導入しました。

誰かが自分の仕事を評価して給与を決めるのではなく、各自が自分はこれだけできるはずだ、やるつもりだという自主判断で給与を決める制度です。

会社にとっては社運をかけた挑戦ですが、申告する社員にとってもチャレンジングな制度で、待遇に不満を言っている余地はなくなると思っています。

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共感採用を実現するWantedlyの機能

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また、Wantedly上でブログを投稿したり、社員をメンバーとして公開できるため、企業の魅力や雰囲気を伝えやすいのも特徴です。

良い会社があれば話を聞きたいと考えている転職潜在層にも知ってもらい、興味を持ってもらうことができます。

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