Wantedlyが実施した「企業のパーパスに関する調査」(2022年4月)では、パーパス(ビジョン、ミッション)を重視する就職や、パーパスへの共感を重視する採用が増えている傾向が、はっきりと見て取れます。
今回はこの結果をふまえながら、共感採用を重視するマネーフォワードと平安伸銅工業の採用担当者をお招きして、組織づくりや採用におけるパーパスの重要性や効果についてお話しいただきます。
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▼ゲスト
株式会社マネーフォワード People Forward本部 中途採用部 部長
川口 恵司
2014年、株式会社LITALICOに新卒入社し、採用業務全般に携わる。
2019年、株式会社Loco Partnersに入社し、MVV策定や人事制度の企画運営などに携わる。
2021年に株式会社マネーフォワードへ入社。中途採用担当としてビジネス・コーポレート職の採用に携わる。2022年2月に同部署のリーダー、同4月からは部長に就任。
平安伸銅工業株式会社 カルチャーグループ長
小島 括俊
2011年に㈱ブリヂストンへ新卒入社し、国内・海外営業やマーケティングに従事。
2017年に平安伸銅工業㈱の3代目代表取締役竹内香予子と出会う。ビジョンへ共感し、同社経営企画・海外営業チームへ入社。ビジョン及びバリューの浸透に取り組む。
2021年に神戸大学大学院のMBAコースを修了。現在はビジョン、バリューに根差した、独自の人事制度の策定・運用にチャレンジ中。
▼司会
ウォンテッドリー株式会社
五十嵐 萌子
法政大学キャリアデザイン学部卒業後、ITベンチャー企業にてWEBメディアのディレクター・新卒採用担当を経て、2019年10月ウォンテッドリー入社。今はコミュニティ / 中途採用を担当(元カスタマーサクセス)毎日Wantedlyでスカウト&カジュアル面談をやってます。
パーパス重視の傾向と共感採用の重要性について
五十嵐:トークセッションに入る前に、企業のパーパスを重視する求職者の傾向と、それに対応する採用手法とされる共感採用について、簡単にお話しさせていただきます。
パーパスという言葉は、Googleトレンドを見てもこの5年で急上昇しています。パーパス関連の書籍も、多数出版されています。
その背景には、インターネットの普及による社会変化、コロナ・戦争などの予測が難しい事象、個人の価値観の多様化などがあります。
また、新たな価値観を有する世代(ミレニアル世代、Z世代)の組織への加入により、これまでと異なる組織づくりが求められるようになったのも背景の1つです。
Wantedlyが2022年4月に行った「企業のパーパスに関する調査」でも、パーパスを重視する求職者が増えていることが示されています。
入社時にパーパスを重視したという求職者は、この5年で2倍に増えています。
また、パーパスへの共感性が高いと仕事のモチベーションも高い傾向にあることも、調査結果からうかがえます。「パーパスへの共感」は、いまや採用や組織づくりの重要なファクターになっていることが分かります。
調査結果は以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
https://www.wantedly.com/hiringeek/recruit/pr_purpose/
マネーフォワード、平安伸銅工業の事業内容とパーパスの紹介
五十嵐:ここからはゲストとのトークセッションに入ります。まずお二人に、自社の事業とパーパスをご紹介いただきたいと思います。
川口:マネーフォワードの事業で一般的に知られている家計簿アプリ「マネーフォワードME」の売上は全体の15%弱で、70%程度をBtoBのサービスが占めています。SaaS×Fintech領域で、国内最大級のユーザー基盤とプロダクトラインナップを提供しています。
このように、BtoCだけでなく、日本全体の「お金」を取り巻く状況を前に進めていくこと、そして全ての人の人生を前に進めることが私たちのMissionです。
▼マネーフォワードのパーパス
Mission:お金を前へ。人生をもっと前へ。 Vision :すべての人の、「お金のプラットフォーム」になる。 Value:User Focus Technology Driven Fairness Culture: 1.Speed 2.Pride 3.Teamwork 4.Respect 5.Fun |
小島:平安伸銅工業は家庭日用品の企画、開発、委託製造、販売を行っています。製造拠点を持たないファブレスメーカーです。主な商品は、収納用品・家庭用品、 DIY・インテリア用品などです。1970年代に、収納場所を手軽に増やすことができる「突っ張り棒」を発案しヒット商品になりました。
▼平安伸銅工業のパーパス
mission(使命): 「暮らすがえ」の文化を創る vision (目的地): アイデアと技術で「私らしい暮らし」を世界へ value(あり方): ”自由闊達でいこう” など9つの価値観 |
パーパス浸透のための取り組み
五十嵐:2社さんのパーパスが分かったところで、パーパスの浸透のために社内でどんな取り組みをしているのかをお聞きしたいと思います。
川口:マネーフォワードがまず大切にしているのは、次の2点です。
①「共感」「共創」を徹底
②ポジティブな使い方を心がける
パーパスは、ボトムアップだけでは決められないが、トップダウンだけで決めても浸透しないものだと思うので、作成時にみんなで案を出し合い、社員の思いを汲み取りながら作ることを重視しました。
また、社内に広めていくときにも、経営陣が言い続けるだけでは浸透しないので、朝会や戦略策定や個人評価の指標など、さまざまなタイミングでパーパスに触れる機会をつくるようにしています。
例えば、表彰制度でカルチャーヒーローというカルチャーを体現した人を選出する項目を設けたり、その受賞者には写真に写っている特注のパーカーを着てもらったり(笑)。
五十嵐:カルチャー部というのはどういうものですか?
川口:カルチャー部は、『働くメンバーがマネーフォワードの「MVVC(ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャー)」に共感し、日々誇りを持って働いてもらえる状態をつくりだすこと』をミッションとして活動しています。。浸透させるというよりは、カルチャーについてみんなが考え、語るための土台を作る役割をしているという表現があっているかもしれません。
具体的には、Slackのスタンプ作りや、表彰制度の設計運用もやりますし、「ハッピーアワー」という終業時間の7時以降の飲み会を企画運営したりなど、MVVC浸透のためにさまざまなことをしています。
②の「ポジティブな使い方を心がける」というのは、「守らなきゃいけないもの」という意識とか「これをやらないといけない」みたいな捉え方にならないようにすることです。そういうネガティブな使い方をしていると、パーパスがパフォーマンスをエンパワーするものではなく縛るものになってしまいます。
なので、チームでのコミュニケーションでも「こういうときこそFunでいこう!」のように、ポジティブな使い方を意識するようにしています。
五十嵐:平安伸銅工業さんは、パーパス浸透のためにどんなことに取り組んでいますか?
小島:弊社は2018年にビジョンとバリューを改定したので、まず新しいビジョン・バリューに馴染みを感じてもらうことが必要でした。「経営陣がまた何か新しいことやるのかな」みたいな冷めた捉え方をしてもらいたくなかったからです。
そのため、まずプロジェクトチームのメンバー自身が楽しみながら施策を企画、実行することにこだわりました。それによって、メンバーがビジョンやバリューを堅苦しく考えずに、自分のパフォーマンスに活かしてくれるようになると考えたからです。
浸透から共感へのストーリーとして、マーケティングのカスタマージャーニーになぞらえて、「触れる機会を増やす」→「理解する」→「共感する」というフェーズに分けました。
最初の「触れる機会を増やす」では、バリューをビジュアル化しました。具体的には、バリューのロゴを作り、「バリュークッキー」というグッズも作り、キックオフのイベントで配りました。クッキーの袋には、各チームリーダーをキャラクター化したカードを作って入れました。カードの裏には彼に紐ずくバリューやエピソードを書き入れました。
「理解する」では、ビジョンとバリューの発表から一定期間がたってから「なんでもいいので、ビジョンやバリューに関する活動を発表してください」とプロジェクトを立ち上げ、メンバーを募集しました。ビジョンをラップで表現する動画など、ユニークな活動もあり、社内で発表しました。
「共感する」では、平安ラジオという社内ラジオ番組を作りました。これは、メンバーのプライベートでの「私らしい暮らし」を紹介する企画で、これまで30回ほど放送しました。最初は社内広報用でしたが、いまは採用の広報にも使用しています。
五十嵐:マネーフォワードさんでも、動画やラジオのような媒体も使っているのですか?
川口:ラップの動画はさすがになかったですが(笑)、ラジオに近いもので言うと、noteの利用があります。事業部ごとにnoteのアカウントを持っているので、そこで自分たちが好きなように発信していて、それが社内広報にもなっています。
あとは、週に1回「朝会」を、社員が1,000人を超えた今も毎週全員が集まって実施しています。そこがカルチャーの浸透とか共感を醸成する場になってます。
五十嵐:ありがとうございます。わが社でも真似したいものがたくさんあります。
パーパスの重要性や採用活動に与える効果について
五十嵐:ここからは、パーパスが会社にとってどんな重要性を持っているか、採用活動にどう使っていてどんな効果が出ているか、をお聞きしたいと思います。
川口:マネーフォワードでは、ミッション、ビジョン、バリュー、カルチャーをMVVCと呼んでいるのですが、その重要性と効果を次のようにまとめてみました。
【MVVCの重要性】
・会社における羅針盤:組織が一丸となり同じ方向に進むために重要な道標
・ステークホルダーへのメッセージ:会社の価値観やスタンスを届けることができる
・メンバーにとってのエネルギーの源泉
【採用活動に与える効能】
・採用必須条件として多くの人に認知してもらえる
・組織がさらに強い一枚岩になる
マネーフォワードでは7年前、2015年に最初にMVVC作り始めたのですが、その当時は仕事を進めていく中で「自分たちはそもそも何を実現したいのか」のような根本的なところで迷子になることが多かったと聞いています。
社員数も増えてきたこともあり、私たち自身が世の中に対して何をしていきたいのか、そのためにどのような会社や組織をつくっていきたいのか、ということを明確にするために、MVVCの策定をおこないました。
MVVCはメンバーにとってのエネルギーの源泉にもなると考えています。数字や実績に向かい続けると、疲弊しちゃうじゃないですか。そういうときに、MVVCに立ち返ることで、自分たちはこういうことで社会に貢献できるんだ、クライアントに価値を提供できるんだと気づくことができて、また頑張る力がわくと考えました。
採用活動での効果は、MVVCを基軸に選考することで、入社後にゼロから浸透を開始するのではなく、すでに共感してもらえている、浸透しやすい状態(人)からキャッチアップを開始することができる点です。
お互いのハッピーのためにも、わが社のMVVCに共感している方の方が入社後も活躍しやすいと思います。なので、どれだけスキルセットが揃っていても、まずはMVVCへの共感を最重要としています。MVVCの採用に与える効果というより、採用においてもMVVCが基盤になっていると考えています。
五十嵐:なるほど。川口さんご自身も入社したときは、マネーフォワードのMVVCが一番刺さったポイントだったのですか?
川口:そうですね。会社が発信している記事とかを見ていると、パーパスをすごく大切にしていることが一目瞭然でした。なので、マネーフォワードが目指す未来と自分自身が目指す未来がどうマッチングするかを、他の企業さんよりも深く考えさせれらた記憶があります。
以前なら、どの会社で働くかとか、そこでどういう箔が付くかのような、就職活動をしていた人が多かったですが、今は、その一歩次の状況になっていて、何のために自分が仕事をするのかや、仕事を通して何を実現していきたいのかを大切にしている人が増えたと思います。そういう意味で、その人たちが望んでるものをこの会社でどう実現できるかを説明するのはとても重要です。
五十嵐:ありがとうございます。平安伸銅工業さんは、採用活動でのパーパスの意義や効果をどう見ていますか。
小島:パーパスは、応募者のスクリーニングにも、面接でのマッチングの見極めにも役立っています。
応募では、根本的な組織の”あり方”へ共感に繋がることで、よりカルチャーフィットする人材の応募に繋がっています。
新卒採用面接で「平安ラジオをほぼ全ての回を聞いてきた!」という学生がいたり、新入社員から「入社後もメンバーにバリューが根付いている雰囲気が要所要所で見受けられて安心した」などの声をもらっています。
「ラジオ」はメンバーの等身大の人物像を知れる良いきっかけとなっています。内容はビジョンにある「私らしい暮らし」に関してですので、抽象的な概念を具体的にイメージするために求職者に少なからず役立っていると思います。
採用面接では、カルチャーフィットを見る面接がおこないやすいという効果があります。
最終面接では、自己紹介の緊張感をほぐすために、欲求カードというものを使っています。
これは、社長と候補者の両者が、お金とか愛、自己実現など、人としての欲求を書いた30枚のカードを、大切にしている価値観から上に並べて、見せ合います。
アイスブレイクなので、当然笑いながら見せ合うわけですが、その中でお互いに本音の部分でフィットするかどうかが手がかりが見えてきます。
採用面だけでなく「組織づくり」においても、ビジョン・バリューに根差した「組織のあり方」と「個人のあり方」の重なりを重視した人事制度を策定しているので、パーパスは重要です。
平安伸銅工業におけるパーパス導入前と導入後の変化
五十嵐:平安伸銅工業さんは、ビジョン・バリューの策定前に、大きな業績の落ち込みを経験されていますが、それも踏まえてパーパス導入前と導入後の変化についてお話しいただけますか。
小島:1980年代に、収納場所を手軽に増やすことができる「突っ張り棒」がヒット商品になりました。しかし、その後海外廉価メーカーの参入などで「突っ張り棒」をはじめとする主力商品がコモディティ化し、業績が悪化しました。
1994年度には年商48億円に達しましたが、その後急速に業績が悪化し、2008年度には14億円まで減少しました。
その後、現社長の竹内が入社し、社長に就任する中で新ブランドを立ち上げるなどで、業績は回復してきました。しかし、竹内の心の中には「新しいブランドはできたが、組織やメンバーとの意識には大きなギャップがある」という思いがありました。
メンバー同士が活発にアイデアを出し合ったり、連携しながら新商品を作る姿はあまり見られなかったからです。
このままでは、また既存商品のコモディティ化によって業績が悪化するリスクがあるので、それを防ぐには、組織やメンバーの意識が変わらなければいけない、という思いから、ビジョンを改定し、バリューを策定しました。
ビジョンとバリューの導入後の効果は、採用面ではビジョンや バリューへの共感を持つ優秀な人がエントリーしてくれるようになりました。採用後の離職者も、この5年の新卒採用10名中、結婚のためにインドネシアに帰国した1人だけでした。
業務における効果では、今では「私らしい暮らし」などビジョンやバリューが、自然にワーディングとして会議中に出てくるようになりました。組織とメンバーの価値観の目線があってきたと思います。次は、事業への解像度を高めるためにミッションを定義して、近日正式に公開する予定です。
パーパスをもとにした採用広報について
五十嵐:ありがとうございます。ここからは実際に、パーパスをもとにしてどのような採用広報を行っているかをお聞きしたいと思います。
川口:マネーフォワードでは、何を発信するかを各部門に任せています。部門ごとに自分たちの情報発信方法を持っていて、それを使って「自分たちには何が必要か」考えて発信しています。
具体例としては、次のようなものがあります。
- マネーフォワードが考える未来(経営陣の想い)
- 組織に対する考え方やMVVへの想いの記事
- 社員インタビュー
小島:採用広報のためにあまりリソースを割けないという事情もあり、社内広報をそのまま、あるいは少しアレンジして採用広報にも使っています。
平安ラジオも社内広報の媒体でしたが、間違って社外に出したことがあり、結局すべて社外に公開しています。「社長ブログ」ももともと社内向けでしたが、採用広報にも使うようになりました。
また、ここ数年、新聞など外部の媒体が何度かわが社を取り上げてくれたので、それも客観性のある採用広報になっています。
- 社長ブログ
- 外部取材記事
- 社員インタビュー
五十嵐:本日は貴重で具体的なお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。
川口、小島:こちらこそ、ありがとうございました。