Wantedlyは2022年4月に「企業のパーパスに関する調査」を行いました。調査対象は求職者1,182名 と 採用担当者158名です。(Wantedly利用者/非利用者の双方とも含む)
本日は調査結果をご紹介するとともに、平安伸銅工業株式会社の小島括俊氏をお招きして、パーパスに基づいた採用・組織づくりについてお話をうかがいます。
※「パーパス」とは「企業の存在目的や社会的意義」の意味で、企業によっては「ミッション」や「ビジョン」と表現されています。
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▼ゲスト
小島括俊 Katsutoshi Kojima
平安伸銅工業株式会社
管理グループリーダー2011年 ㈱ブリヂストン 新卒入社。国内・海外営業等を担当
2017年 平安伸銅工業㈱入社
2020年 育休取得(2ヶ月)
2021年 神戸大学大学院MBAコース修了
▼モデレーター
ウォンテッドリー株式会社
奈良 英史茨城県つくば市出身。33歳。
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。
大手化学メーカー、ITベンチャー、大手総合PR代理店を経て、2019年4月にウォンテッドリー株式会社の広報担当としてジョイン。PR/Communicationの担当として、コーポレート、プロダクトの広報戦略立案から実行までを行っている。
Wantedlyが実施した「企業のパーパスと採用」に関する調査結果ーパーパスを「かなり重視した」人はこの5年で倍増
この調査の詳しい結果は下記にアップされています。
https://www.wantedly.com/hiringeek/recruit/pr_purpose
【調査結果の概要】
◆ 求職者への調査
・入社時にパーパスを「かなり重視した」人は年々増加し、直近5年間で倍増
・給与よりもパーパスを重視して転職した事がある人は43%、今後そうすることがあると思う人は63%
・ パーパスに共感している人とそうでない人とでモチベーションが高い人の割合に2.5倍の差
◆ 採用担当者への調査
・選考時にパーパスへの共感度を重視すると87%が回答、スキルよりも優先する場合があると32%が回答
・パーパスへの共感性を重視して採用した人の特徴として63%がモチベーションの高さについて言及
・パーパスに共感する仕組み作りに注力しているのは78%、しかし53%が十分に浸透していないと回答
看板商品「突っ張り棒」のコモディティ化で売上が急落。2018年に企業のミッション、バリューから見直す
奈良:本日はよろしくお願いします。
小島:よろしくお願いします。
奈良:まず、平安伸銅工業さんのご紹介からお願いします。
小島:平安伸銅工業は1952年の創業で、社員数は74名(2022年5月10日時点/パート社員含む)です。
売上規模は 約38億円(昨年度実績)で、家庭日用品の企画、開発、委託製造、販売を行っています。製造拠点を持たないファブレスメーカーです。主な商品は、収納用品・家庭用品、 DIY・インテリア用品などです。
戦後に住宅供給が進む中で、アルミサッシの製造・販売で事業をスタートしましたが、都市部への人口密集と手狭な住環境の改善が求められていた1980年代に、収納場所を手軽に増やすことができる「突っ張り棒」を発案しヒット商品になりました。
しかし、その後海外廉価メーカーの参入などで「突っ張り棒」をはじめとする主力商品がコモディティ化(陳腐化)し、業績が悪化しました。
1994年度には年商48億円に達しましたが、その後急速に業績が悪化し、2008年度には14億円まで減少しました。
2018年、業績回復傾向の中でも、組織やメンバーの意識の在り方に危機感を抱き、新ビジョンに改訂
奈良:2008年のボトムから回復しつつある2018年に企業ビジョンを改定したのは、どんないきさつがあったのですか?
小島: 2010年に創業者三代目の現社長である竹内が入社して以降、新ブランドの立ち上げなどで業績は回復してきたのですが、竹内の心の中には「新しいブランドはできたが、組織やメンバーとの考えの前提にまだまだギャップがある」という思いがあったそうです。
指示があったことはしっかり行うが、メンバー同士が活発にアイデアを出し合ったり、連携しながら新商品を作る姿はあまり見られなかったからです。そこには経営者とメンバーの目線の違い、目指す方向性の違いも感じられました。
このままでは、いつまた既存商品のコモディティ化によって業績が悪化するかわかりません。それを防ぐには、組織やメンバーの意識が変わらなければいけない、という思いから「ビジョンの改定」と「バリュー(価値観)」の策定になりました。
2022年には、「『暮らすがえ』ブランドになる」を加えました。
小島:上記のビジョンやバリューの核にあるのは、ユーザーに「私らしい新しい暮らし」を提案するには、作り手である私たちがその実践者でなければならないという認識もあります。私らしい暮らしの実践者であるからこそ、新しいアイディアや技術が生まれるはずだからです。
パーパスを浸透させるために、まずやったのはビジュアル化して親しみを持ってもらうこと
奈良:新しいビジョンとバリューを社員に浸透させるために、どんなことに取り組まれましたか?
小島:3年ほどかけて取り組んだのですが、まずは新しいビジョン・バリューに馴染みを感じてもらう必要があると思ったので、バリューをビジュアル化して触れる機会を増やしました。具体的には、バリューのロゴを作り、「バリュークッキー」というグッズも作り、キックオフのイベントで配りました。クッキーの袋には、メンバーをキャラクター化した「つっぱりマン」のバリューカードを入れました。
小島:まずはライトな感覚でスタートして、ビジョンやミッションに硬いイメージを持たないように、という配慮です。
次に行ったのは、半期ごとのワークショップです。ビジョンやバリューを言葉としてではなく、どうパフォーマンスに結び付けていくことができるかを理解してもらうために、全社総会でグループワークを数回実施していました。また、メンバーの独自の取り組みを発表してもらうバリューPJも実施しました。最初のうちは私から「今度PJに入ってもらえない?」とかなり個人的に頼み込んだメンバーもいましたが(笑)
さらに、バリューに共感してもらうために、「平安ラジオー『らしい暮らし』のお届け」という社内ラジオ番組を作りました。これは、メンバーの会社ではなくプライベートでの「私らしい暮らし」を深堀りして聞く企画で、これまで26回ほど放送しました。
奈良:26回はすごいですね!
小島:ビジョンとバリューを浸透させる一連の取り組みの仕上げが、仕事でのメンバーの行動の表彰です。社内と取引先などの社外から、ビジョン・バリューを体現したパフォーマンスをしているメンバーを推薦してもらい(自薦も可)、それを経営陣が判断してして表彰します。
以上をまとめると、次のような流れになります。
奈良:中身の濃い取り組みを展開されてきた印象を持ちましたが、推進メンバーは何人くらいいたのですか?
小島:おもに、当時グラフィックデザイン担当(現ブランドマネージャー)のメンバーと私の2人でやっていましたが、楽しみながらやるという感じでした。もちろん、ワークショップや平安ラジオでは参加・出演するメンバーの協力をもらいながらです。
奈良:3年かけて取り組んだ効果はいかがでしたか?
小島:最初は「バリューって何?」というような反応が多かったのですが、最近ではミーティングのときに「ユーザーにとっての『私らしい暮らし』ってなんだろう」など、日常業務で「私らしい暮らし」というワードが普通に出てくるようになりました。
平安伸銅工業のパーパスを通じた採用・組織づくりとは?
奈良:小島さんは採用にも関わっているとお聞きしましたが、今回のWantedlyの調査にあるような、求職者の意識の変化を感じる場面はありますか?
小島:今世の中でサステナビリティとかSDGsが話題になっているせいもあるでしょうが、面接で候補者から「事業と社会はどうつながっているのですか」とか「仕事で社会にどう貢献できるのですか」という質問がここ数年とても多くなりました。
なかには「この事業はSDGsのどの項目に該当するのですか」と聞く人もいました。
数年前でしたら、CSR(企業の社会的責任)などコンプライアンスに関する質問があった程度でしたが、今は企業の存在意義そのものに関心がある若い人が増えている印象です。
奈良:採用や組織づくりの面では、パーパスを実現するためにどのような取り組みをされていますか?
小島:昨年(2021年)から取り組んでいるのが人事制度の改革です。制度のコンセプトは、①組織と個人のビジョン、バリューの重なりを重視する、②本人の内発的動機を重視し、長期的な視野で各メンバーの成長支援を行う、です。
具体的には「短期業績目標の廃止」と「毎年の昇給を自己決定する」の2本柱です。
短期業績目標の廃止
短期の業績目標を設定すると、達成手段も近視眼的になり「ビジョンやバリューはさておいて」とならざるを得ません。これでは、かつて経験したコモディティ化による業績悪化のリスクを避けることができないので、それならいっそ短期目標は廃止して、メンバーの能力・スキル、心構えを複合的にかつ長期間見ていこうと考えました。
毎年の昇給を自己決定(2021年6月から実施)
一定等級までは、毎年の昇給を約束しますが、それ以上は毎年の昇給を一定のレンジ内で自己決定し、昇給後の「自分のありたい姿」を公開します。これは人によって違う成長スピードに寄り添うとともに、自律的なパフォーマンスによる組織運営の風土化を目指すためです。
奈良:かなりドラスティックな改革ですが、社員の反応はどうですか?
小島:ポジティブな反応とネガティブな反応に分かれています。説明会も何度か開催したのですが、理解はしたがまだ共感にはいたっていないなど、人によってさまざまです。
ポジティブな反応としては、自分のありたい姿を公開することで、周囲から的を射たフィードバックをもらえるようになるのでは、という声がありました。たとえば「今後こんなコミュニケーションをしたい」とか「人材育成ではこんなことを目指したい」と公開することで、本人が目指すところからズレないフィードバックがもらえて、対話にもつながりやすいのではないか、ということです。
奈良:なるほど、個々人の目指すところが見える化されることで、それを支援することが可能になるわけですね。
小島:はい、それはヨコだけでなくタテの関係でも言えて、経営層から「ではこういうサポートをしよう」とか「こんなプロジェクトを任せてみよう」という反応も期待できるのではと思います。
パーパスを策定,浸透させるなかで、採用面ではどんな効果があったか
奈良:みなさまからの質問にもあるのですが、パーパスの具現化に取り組むなかで、採用面ではどんな変化や効果がありましたか?
小島:採用で取り組んだのは、採用広報でビジョン、バリューに共感する応募者を増やすことでした。そのためにWantedlyなどの媒体で、組織風土づくりの施策や社員インタビュー、 社長ブログを発信しました。社内向けに作った「平安ラジオ」も採用広報にも使用したほか、メディアに組織マネジメントに関する記事を掲載していただきました。
その結果、ビジョンやバリューに共感して応募したという人の割合が非常に増えました。これは、求職者が「応募する会社にどんなメンバーがいて、何を大切にして仕事をしているのか」を重視する人が増えたということだと思います。応募者の中には「平安ラジオ」をほぼすべての回を聴いたという人もいました(笑)
面接では、カルチャーフィットを重点に判断し、とくに最終面接では、組織の考え・なりたい姿と応募者の考えがマッチングするかどうかを見極めることを重視しました。
奈良:それによってミスマッチが減るなどの効果はありましたか?
小島 : 2018年から毎年2名ずつ新卒を採用していますが、これまで入社した10名のうち退職したのは、結婚のためにインドネシアに帰国するという1人だけでした。
奈良:本日は貴重なお話をありがとうございました!
小島:こちらこそ、ありがとうございました!