近年、人事界隈で「採用広報」という言葉がトレンドとなっています。各社、さまざまな手法や工夫で取り組んでいますが、企業により採用課題や指標が異なることから、日々試行錯誤をしているようです。
そんな中、自社にフィットした手法をいち早く見つけ出し、成果につなげてきたのがナイル株式会社の渡邉慎平氏。現在は同社で採用オウンドメディアの運営や、採用広報・採用マーケティングを担っています。
そんな渡邉氏が、以前から注目していたのがSmartHRの取り組みです。
そこで、SmartHRで採用広報を担当する、瀧田成紗氏との対談を実施。異なる手法ながら様々な成果を生み出してきた2人の取り組みから、採用広報に対するスタンスや考え、実際の施策におけるポイントを学んでいきます。
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株式会社 SmartHR
人事グループ 人事採用
瀧田成紗 氏新卒で株式会社コロプラに入社し新卒採用に従事。エンジニア採用の企画〜運用までを担当。その後、テックビューロ株式会社にて人事総務グループを立ち上げ、SmartHRを導入。その後、株式会社SmartHRにて採用広報業務とエンジニア/デザイナー/PMなどのプロダクトサイドの採用を担当。2021年10月よりSmartHRグループ会社である株式会社Looperに出向。
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ナイル株式会社
カルチャーデザイン室マネージャー
渡邉 慎平 氏慶應義塾大学卒業後、ナイル株式会社(当時ヴォラーレ株式会社)に新卒入社。300社以上のWebマーケティング支援に携わったのち、2018年5月に人事へ異動し、採用と広報を所管。年間100名以上を採用。
「実態を知ってもらう」「採用チャネル・母集団を増やす」それぞれが採用広報をはじめた理由
渡邉慎平氏(以下、渡邉):本日はよろしくお願いいたします。弊社は2018年にメディアを立ち上げたことをきっかけに、以降採用広報に注力してきました。そのうえで、とくに参考にさせていただいていたのがSmartHRさんの発信です。まずは、採用広報の取り組みをはじめた時期から聞かせてもらえますか。
瀧田成紗氏(以下、瀧田):こちらこそよろしくお願いいたします。実は正式に採用広報をプロジェクトとして進めるようになったのは2020年の7月からなんです。
渡邉:そうなんですね。ただ宮田社長をはじめ、会社としてはかなり以前から採用に関して発信されていましたよね?
瀧田:はい。「情報はすべてオープンにして採用力を高めていこう」というのが宮田の考えだからです。そんな宮田の考えが会社のカルチャーとして浸透していき、一人ひとりの社員が積極的に発信するようになり、多くの方が見てくださるようになりました。一方で、採用課題を解決するためにはしっかりとプロジェクト化して取り組む必要性があり、あらためて採用担当が携わるようになった、というのが実際の流れになります。
渡邉:どのような課題があったんですか?
瀧田:採用計画達成のためには圧倒的に母集団が不足していたことです。というのも採用人数が前年比約1.3倍のボリュームで増え続けており、現在は年間約200名採用しています。これまでは母集団の7割がエージェント経由でしたが、このまま母集団が増え続けていけばエージェントのチャネルだけでは限界があるだろうと。
そこで、他の採用チャネルを強化しようとの考えに至ります。さらにはエージェント経由も含め、候補者それぞれのフェーズに合致した情報を的確に届ける施策を行うことで内定率をより高めたい。このような考えから、採用広報として取り組むことになりました。
渡邉:なるほど。採用目標達成とエージェント以外の採用チャネル強化というのが、SmartHRさんが採用広報をしっかりと取り組むことになった背景だったんですね。採用広報をはじめるきっかけは会社によって違いますね。弊社の場合は、会社の実態と候補者のイメージで大きなギャップがあり、埋めたいと思ったからです。
瀧田:どのようなイメージギャップだったんですか?
渡邉:東大出身の社長が経営しているので「学歴主義の採用をしてそう」とかSEOで事業を伸ばしてきた会社なので「SEOしかやってなさそう」といった、ぱっと見のイメージが先行していました。実際は学歴に関係なくいろいろな経歴の社員が活躍していますし、SEO以外の領域にも事業を展開しています。
当初は、面接の度にイメージと実態のギャップを口頭説明で埋めていたのですが、面接の前に正しい理解をしてもらいたいと思ってコンテンツを作りはじめたのが採用広報のスタートでした。「広報(広く報せる)」というよりは、候補者に対してピンポイントで伝える「狭報(狭く報せる)」という考え方でしたね。
▼ナイル株式会社の採用広報の考え方
https://owned-media-recruiting.com/post-0080
創業当初から続く“オープンカルチャー”をそのまま採用広報に重ねた
渡邉:SmartHRさんは具体的にどのような流れや施策で採用広報を進めていったのですか。
瀧田:コーポレートサイト、掲載型の採用媒体、ダイレクト・リクルーティング、イベント、リファラル、自己応募など、エージェント以外のそれぞれのチャネルでどのような取り組みができるか、をまずは洗い出しました。
候補者との接点を持ったか持っていないかを区分に、持つまでの段階を3段階で設定。持ってから応募に至るまでの段階を4段階にわけ、どこのステップにどんな候補者がいるのか。その候補者に対して、どのような施策を向ければよいのか。アナログ的なやり方で進めていきました。
渡邉:採用目標の200名を達成するために歩留まり率を考えると、必要な母集団数が非現実的で天文学的な数字になりそうですね。認知形成から接点をもつまでの各フェーズでの歩留まり率など、KPIの設定はどうされたのですか?
瀧田:おっしゃるとおり天文学的な数字になります(笑)。ですから当初は数字は追わずまずはいろいろと施策を試してみようと考え、実際にアクションしていきました。立ち上げ段階ですので、成功しても失敗してもプラス1になりますし。
コンテンツは、代表や社員のブログのほか、オープン社内報、外部のインタビュー記事など豊富にありましたから、まずはこれらのコンテンツを多くのチャネルで発信すること。記事を読んでくださった方がカジュアル面談や応募といったアクションを起こしてもらえる施策を考え、実行していきました。
渡邉:オープン社内報をはじめて見たときは衝撃的でした。最初はインナー向けのコンテンツだったんですね。
瀧田:「情報をオープンにしよう」というカルチャーは、創業のころからありましたから、とくに意識することなくオープン社内報も外部に公開していきました。すると実際、採用広報としての効果を生んできたんです。たとえば、新型コロナウイルスに関する情報や対応を逐一アップし続けたことで、「意思決定が早い」との印象を多くの候補者に持ってもらえました。
▼SmartHRオープン社内報
https://shanaiho.smarthr.co.jp/
渡邉:社内の状況がリアルタイムでわかることは、候補者の方にとってもうれしいですね。SmartHRさんでは、上記の情報以外にもコストの詳細、給与・評価制度など、一般的には経営会議で話されているような内容まで、オープンに発信していますよね。
外部から入社を検討している方にとってはよいことだと思いますが、オープンにすることでの社内で働いている人にとってのネガティブな影響はなかったのですか?これは聞いた話ですが、あるスタートアップで行った採用広報が「背伸びしている」と社内メンバーか捉えられて、逆にエンゲージメントが下がってしまうというケースもあるようです。
瀧田:弊社に関してはデメリットはないですね。そもそも宮田が発信している内容は、ふだんから社内にもオープンに共有している内容がほとんどだからです。経営会議の内容を社員に共有する時間を毎週30分設けていることも大きいと思います。
さらに単に数字やテキストとして発信するのではなく、全メンバーが理解できる共有方法を意識しているので「実態とそぐわない」ということがほとんどありません。
渡邉:コミュニケーションがしっかりと取れているからこそ、文字化されていないコンテクストや微妙なニュアンスまで、伝わっているのでしょうね。ただ、そこまでのコミュニケーションを醸成するには、かなりコストがかかっているのではありませんか?
瀧田:そう思います。たとえば社外取締役の選定でも、声をかけた理由から、その方の魅力や特徴、現在どこまで選考が進んでいるかといった詳細まで、時間をかけて丁寧に共有されましたからね。今回の取材についても、すぐにオープンな情報として全従業員に共有されます。
遊び心満載な“イベント”をフックに会社の実態を逐一候補者に発信し続ける
渡邉:SmartHRさんといえば、ユニークなイベントを開催している印象もあります。「公開雑談」などのイベントはどういった意図があるのでしょう。
瀧田:セッションやカンファレンスなどのかっちりとしたイベントではなく、もっとラフに、事業や仕事のことだけでなく、働いているメンバーの人柄や雰囲気も感じ取ってもらいたい。「公開雑談」は、このような想いで開催しているイベントです。
イベントを開催している理由の根幹は、自己応募を増やしたいからです。長期視点での採用を考えた上で、タレントプールをつくりたいなと。というのも以前から「不採用」との言葉が、しっくりきませんでした。タイミングやポジションが異なるだけで、いつかはマッチし仲間になれるのではないか。そう、考えていたからです。
渡邉:その時々のSmartHRさんの実情をイベントを通じてリアルに伝えることで、ファンが増えるきっかけになる。そうすればすぐに選考につながらなかったとしても、いつかどこかのタイミングで仲間になるかもしれないという考えなんですね。
瀧田:ええ。毎週のように採用目標を立て、母集団形成のために各種施策を打つ。その効果を検証し、フィードバックする。このような従来の採用フローでは、私たち採用担当も疲弊していきますし、企業のブランドを毀損することにもつながるのではないか、とも感じていました。
より長期的な視点で人材を資産と捉えたほうが、採用・広報どちらの活動もやりやすいのではないかと。マーケティングにおけるリードナーチャリング的な考えを、人事・採用に取り入れた感覚です。
渡邉:採用広報というと、オウンドメディアでひたすら記事をつくるという手法がメジャーだと思いますが、一方でSmartHRさんの取り組みを見ていると、新しいかたちの採用広報のトレンドをつくっていると感じています。
イベントのコンテンツ自体はもちろん、告知ページもキャッチーで遊び心が満載であることも以前から気になっていました。ノベルティもかなり凝っている。そのあたりの感覚やこだわりについても聞かせてください。
瀧田:そもそもの発想として「楽しそうなイベントでなければ多くの人が参加しないだろう」という思いがあります。ノベルティに関しても、採用広報のために作るというよりは、自分たちがほしいもの・使いたいものを作っている、という感覚です。
そのためどちらの企画においても、社員自体が遊び心を持ちながらアイデアを出していき、その環が広がり醸成された結果として、尖った・ユニークなイベントやノベルティにつながっているのだと思います。
もちろん、タイトルや画像、説明文などの「OGP(Open Graph Protcol)」には気を遣っていて、TwitterなどのSNSが主な集客チャネルなのでバズりやすい言葉を意識しています。たとえば「老害が語る○○」といった感じで、Twitter上で目を引くタイトルやトップ画像、イラストを意識して作成しています。
あまりきれいに作り過ぎない。ふだんの私たちの“素”がしっかりと伝わるよう、告知もイベント自体も、そういったコンテンツになるよう意識しています。
実際、そのようなイベントですと社員も参加してくれますし、社員がツイートすることで、さらに拡散しますからね。採用広報は外部にばかり目がいきがちですが、社内のメンバーも意識することで、副次的効果が生まれると感じています。実際、現在では1イベントで200~300名が新たにタレントプールに加わっています。
渡邉:どうしても対外的によく見えるように、きれいに”お化粧”してしまいがちですもんね。あまりにもきれいに整い過ぎていると会社から検閲が入っているような感じがしますし、作り物感が強くなって逆に候補者の方が引いてしまうこともあります。弊社でも社員のTwitterから応募につながることも多く、加工していない“素”の情報や“生”の声の影響力は大きいと感じています。
バズったコンテンツはそれ自体が注目されがちですが、SmartHRさんの取り組みを見ていると、その前後、まわりの施策も丁寧かつ地道に行っている姿勢が伝わってきます。
あらゆるチャネルの活用・フックポイントの工夫で、タレントプールは3700人へ
渡邉:SmartHRさんは、note、ブログ、Wantedlyなどさまざまな媒体で採用広報に取り組んでいますが、まさに弊社も同じです。コンテンツは同じであっても、読者の属性が異なるために、あえて、多くのチャネルで情報発信することを意識しています。認知のチャネルを増やす、とも言えるでしょうね。
たとえば、エージェントの紹介でその企業の存在を知り、エージェント経由では応募しなかったけれど、その後Wantedlyを見て応募する、といったことも起こりえます。採用広報においては、エージェントや求人媒体の代替施策として強化するものではなく、あらゆるチャネル、候補者との接点を意識し、施策に取り組むなどの努力をすることが重要だと、あらためて瀧田さんとの対談を通じて、感じました。
瀧田:まさにおっしゃるとおりだと思います。ひとつの施策で成功することはほとんどありませんからね。そもそも、どこにマッチする人材がいるかも分からないわけですから。地引き網のようにまずはチャネルを広げること。各メディアやコンテンツで異なるフックポイントを散りばめる施策を打つ。そうして施策に反応した人材を、しっかりと引き上げる。このような一連の流れが重要だと、私もあらためて感じています。
たとえば、Wantedlyであれば使っているユーザーに向けてダイレクトに情報を伝えることができ、募集情報を掲載するとある一定のPVを見込めます。今後はストーリーの機能を社員にも活用してもらうことで、より効果を広げていきたいですね。
渡邉:広報と聞くと一見華やかに思えますが、内実はとても地味で地道な取り組みが多いですよね。媒体ごとのフォーマットに合わせて記事を書く配慮や手間も必要ですし。重要なポイントを意識されている一方、現在感じている課題はありますか。
瀧田:各チャネルにコンテンツを配信し、候補者さまとの接点、フックを持つまでにはなっています。実際1年間でタレントプールに溜まった人材データは、約3700名にもおよびます。
そして、そこから先に改善の余地があります。つながった方々に有益な情報を届けるデリバリーが足りていないと感じていますし、今後の課題だと捉えています。
渡邉:新規、面識のある方、リファラル、過去に応募を見送った人など、それぞれの属性の方に響く、ストーリーやカスタマージャーニーを作成し提供していくことは、難しいですからね。
このあたりの施策は広報というよりも、採用マーケティングだと私は捉えていますし、両者は明確に区切れないとも感じています。一方で採用マーケティングでは、事業におけるマーケティングほどしっかりとデータ連携できないことが、大きなネックだと捉えています。
瀧田:おっしゃるとおりだと思います。データベースやツールなどの連携は、大きな課題だと私も捉えています。実際、現在はTalentio、Marketoを利用していますが、CSVファイルを手動であいだに挟むことで、連携させている状態だからです。
ガチガチのマーケティングツールは、採用担当者が使うには扱いが難しすぎたり、採用の概念が入っていないことなども課題だと感じています。
渡邉:そうですね。そんななかで、採用広報での手応えはどう感じていますか。
瀧田:3700名分もの候補者がいらっしゃいますので、候補者の方々が面白いと感じるコンテンツを採用広報で届けていきたいです。
また、採用広報では対複数人向けのコミュニケーションを行いますが、目の前の候補者と1to1のコミュニケーションをとることも平行して大切だと感じています。従来持っていた採用担当としての嗅覚とでも言いましょうか。入社するだろうと感じる方にピンポイントで連絡をとり、採用につながっているケースもあります。当面は目の前のできることや効果が出やすい、コミットしやすい施策に注力していくことが重要だと考えています。
渡邉:地道にコツコツ進めていくことが大切ですよね。あらためて今日お話しができて非常に有意義な時間になりました。「採用広報」というテーマで、共感や新たな発見がたくさんありました。ありがとうございました。
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