ベンチャー・スタートアップ企業の成長過程には「30人・50人・100人の壁」として知られる課題があります。この中でも「30人の壁」とは、PMF(プロダクトマーケットフィット)を経た企業が、人員増加と並行して「個の集まり」から「組織」へと生まれ変わる中で直面する様々な組織課題のこと。
スケールを目指す組織においては、採用の成否が大きな関心事になるのはもちろんのこと、社員の定着・活躍を促す仕組みづくりも今後の事業成長における重大な課題になります。そこで今回は、福利厚生施策の一貫としてPerkを導入したX Mile株式会社の共同創業者でありCOOである渡邉さんに、急成長企業におけるエンゲージメントの理想と現実について取材しました。
渡邉 悠暉: X Mile株式会社 COO&Co-Founder
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急速にスケールする組織に立ちはだかる壁
――X Mileは2020年1月からこの半年の間に急成長を遂げているスタートアップ企業です。急激に社員数が増えていく中で、会社のカルチャーづくりの観点から取り組んできたことはありましたか?
渡邉:カルチャーづくりのための社内施策は、正直これまでほとんどできていなかったと思います。採用を最優先に取り組んできた結果、1月には2人だったメンバーも半年で10人を超え、今は社員の活躍を下支えする教育プロセスやオペレーションの整備をメインで進めている段階です。カルチャーづくりはこれから、といったところでしょうか。
ただ、採用を考えるプロセスにおいて、仕事に対して「熱狂できる人」、仕事とプライベートを切り離せる「大人なコミュニケーションが取れる人」が集まる会社になればいいなとは、ぼんやり考えていましたね。ひとつのカルチャーに集うというよりは、同じような価値観を共有できる人同士で輪を作っていくイメージで採用を進めていました。
ーーまずは採用を通じてカルチャーの輪郭を作っていこうということですね。
渡邉:はい。50人規模まではとにかく「こういう人が欲しい」という採用像の定義を突き詰めていって、100人を超えるまでには自分たちの大切にするカルチャーを明文化したいな、というのが現状で思い浮かんでいるタイムラインですね。
ただ経験上、採用のアクセルを踏む一方で、同様のスピード感で組織の足元を固めていかないと社員が定着しないということもわかっています。実は以前勤めていた会社も急成長のフェーズにあった5年目のベンチャーで、これから組織をどんどん大きくしていこうという段階でした。その会社は、スター社員の存在に惹かれるように、優秀な社員が月10-20人単位で入ってくるような会社です。ただ、同時に同じだけの数毎月辞めていってしまう。仕事を頑張りたい人が入ってくるはずなのに、みんな仕事に疲れて辞めていってしまいました。
ただ離職率が高いからといって、福利厚生面にまったく関心を払わない会社だというわけではなかったんです。人事は健康経営を目指していて、オフィス環境の改善やヨガ講座、仮眠スペースの用意といったサポートを充実させていました。でも、ふたを開けてみたら誰も使っていない。これには会社の雰囲気が影響していたと思います。
ーー「会社の雰囲気」とは具体的にどんなものでしょうか?
渡邉:たとえば仮眠スペースを利用したくても、「経営陣/リーダー陣があれだけコミットしてるのに」「まだ目標に届いていないのに」という目線が気になって使えないということがありました。カルチャーにはそういった「社内の不文律」が大きく影響してきます。なのでX Mileの社内制度は、まず経営陣が率先して使うことを念頭に組み立てていきたいと思っています。
具体的なやり方はまだ見えていませんが、必要な情報やニーズを吸い上げていく体制が必要です。今は、1on1の中で現場で起きている事実の確認を行って、何かしら制度設計に関わる要素が社内に落ちていないか探っているところです。
社員の定着・活躍を阻む“負”をなくす。
ーー先ほど「50人規模までは採用像の定義を突き詰めていく」というお話がありましたが、X Mileでパフォーマンスを発揮しやすいのはどんな人ですか?
渡邉:言語化能力が高い人ですね。また、教育制度が特に整っているわけではないので、主体的にインプットをする“握力”を持っている人が良いです。特に第二新卒までの採用では、この点を重視しています。また、うちの会社に入ることを人生にどう役立てるのかという目的意識を持っている人。これを持っている人たちは辞めづらいです。
最近では、ソーシャルスタイル診断という簡単な性格診断も取り入れ、新規事業や既存事業のアサインの際の参考にしています。配属ミスは会社に定着してもらう致命的な妨げになる可能性があるので、なるべく取り払っていきたいです。
さらにいえば、熱量高く入社してくれたメンバーが活躍しやすくするための働きかけも必要です。『反脆弱性』(ナシーム・ニコラス・タレブ著)という本の中でも解説されていますが、ストレスは閾値を超えない範囲であれば、その人の成長を促すもの。しかし、その閾値を超えてしまうと、途端に成長を阻害する要因に変化してしまいます。社内を見渡して、オーバータスクや人間関係のこじれ、オフィス環境の悪化などメンバーを摩耗させるストレス要因があれば、経営陣が率先して取り払っていかなければいけないものだと思っています。
ーー具体的にどんな形でストレスの原因を取り払っていこうとお考えですか?
渡邉:オフィス環境、仮眠、食事、BGMなど様々な側面から検討していますが、オフィス自体にお金をかけたいかというと、まだかけるフェーズではないと考えています。オフィスを充実させると確実に従業員満足度は上がりますが、その分「きれいなオフィスで働きたい」という人の応募も増え、採用におけるノイズが増えてしまうためです。
ただ、1日につき8時間、多い人で12時間ほどオフィスで過ごすので、やはり作業環境は整える必要がある。なのでまずは、椅子やモニター、ヘッドセットなど五感に接する部分に投資していますね。
ーー設備・環境投資以外で、社内制度として検討を進めているものはありますか?
渡邉:従業員のニーズを汲み取って反映できる福利厚生が着手しやすいので、まずはそこから始めています。それよりも先に給与制度を作るべきかなとも思ったのですが、こちらはまだ社員には公開できていません。給与制度ばかり先に固めてしまうと、得点を取るために仕事をするようになってしまうので、その匙加減が難しいなとも思っています。
ーーベンチャー・スタートアップでは、フレックスタイム制などの「働き方」にまつわる制度や部活動支援のような交流促進施策を自社の魅力として打ち出す企業が多いイメージですが、X Mileはそうではないんですね。
渡邉:たしかに、いわゆるイケてるベンチャー企業ってそのような制度が整っているイメージがありますね! でも、いざ自分が作る側になるとそのような発想はありませんでした。
フレックスタイム制の導入やリモートワークのルール化も検討したことはあるんですが、ビジネルモデルの都合上、出社して決まった時間に業務を開始する人が多いです。僕自身、「オフィスでやりましょう」と社員に呼びかけているので、そうなるとオフィスで過ごす時間のクオリティを上げてあげたいなと。部活動も月に1度くらいしか集まらないのであればあまり必要ないと思っているので、制度にはしていません。まずは衛生要因における“負”を未然に取り除くような制度を導入し、離職防止を目指したほうが役に立つと考えています。
社員の「働いていてよかった」という気持ちを引き出すプレゼント。
ーー渡邉さんご自身が理想とする職場環境はどのようなものですか?
渡邉:やはり、仕事以外で悩みが発生しない職場がベストです。たとえば社員に対してある程度の敬意や距離感を自然に保つための“型”として、弊社では「さん」付け文化を推奨しています。仲いい者同士の馴れ合いも、馬が合わない者同士の険悪な空気も、ビジネスにおいては邪魔ですから。
「コトに向き合う」と弊社でもよく言いますが、「コトに向き合え!」と上から言うのではなく、コトに向き合えなくなる要因となるような部分は制度で排除していきたいですね。
ーーものすごく理にかなっていると思います。そんな中、社員に対する福利厚生としてPerkの導入を検討されたきっかけを教えて下さい。
渡邉:Perkのことは、ウォンテッドリーで働く学生時代の友人から紹介を受けて知りました。第一印象としては、とにかく「イケてる!」ということ。カタログタイプの福利厚生サイトとはまた違ったサービスデザインで、見たことのある企業のロゴがたくさん並んでいるのが印象的です。
企業がWantedlyに登録していれば従業員みんなが使えるというのも、僕たちのようなスタートアップにとっては嬉しいご褒美です。宅配ピザからワークチェアのレンタルまで、「このディスカウントすごくない?」とオフィス内の話のネタにもなっています。メンバーに紹介したときも「これ、僕も使えるんですか?」とびっくりしていました(笑)
ーーありがとうございます。では最後に、福利厚生や従業員特典について渡邉さんのご意見を聞かせてください。
渡邉:エンゲージメント高く働くための条件というのは人によって様々ですが、弊社で働くメンバーの場合、自らの成長や経験を得るためにこの環境を選んだという人がほとんどです。そういう姿勢は会社としても大切にしたいし、嬉しく思っています。
そんなメンバーの頑張りに対して給与という形で還元することももちろん大切ですが、そうではない形でプレゼントできる「特典」を用意することも同じく大切です。実は、学生時代に読んだ『予想どおりの不合理』(ダン・アリエリー著)という本のなかに「プレゼントはお金であげるよりもモノであげた方が満足度が高い」という研究結果があって。特に僕たちのようなスタートアップの場合、メンバーに「働いていてよかった」と思ってもらうためにも、特典を通じて一人ひとりの挑戦を応援してあげたいと思いますね。
正直、「福利厚生」という言葉はあまり好きではなかったのですが、働く人への特典としてのPerkには素直に共感することができましたね。お金だけでは伝えられないものもありますし、マイナス要素を取り除きつつ社員の満足と向き合うことで、引き続き定着を促していければと思っています。
掲載サービス100社突破!従業員特典サービス「Perk」について。
従業員特典サービス「Wantedly Perk」は、2020年3月に当社のエンゲージメント事業の皮切りとしてリリースいたしました。Wantedly を有料で利用している企業の従業員の方やその家族の方(LGBTや事実婚などのパートナーも含みます)を対象に、シゴトへの「挑戦」を支援する福利厚生としてご利用いただけます。
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