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【イベントレポート】ものづくり領域における新たなBizDevとは(前編)

伝統的な産業においては、「産業BizDev」を推進することは、ポテンシャルのある産業をさらに伸ばしていく、魅力的な産業へと変革するための1つのインパクトとなりえます。

5月12日に行われた「ものづくり領域における新たなBizDevとは」というイベントでは、アウトサイダーとしてものづくり領域における産業BizDevの人材やマインドについて、産業改革の最前線を走る3社がディスカッションを行い、産業改革を成功に導いたヒントやリアルな体験などが多数散りばめられた時間となりました。

モデレーターは、ラクスル株式会社の福島広造氏が務め、株式会社日本農業CEOの内藤祥平氏、キャディ株式会社の幸松大喜氏、ラクスル株式会社の上村太介氏が登壇しました。

第1部では、福島氏、内藤氏から産業BizDevの役割や課題について語り、第2部では、幸松氏、上村氏を交え、産業BizDevの成功体験について、その要素を分析していくパネルディスカッションを行いました。本イベントは日本農業が主体となり全3回のシリーズで実施予定です。今回はその第1回目で、ラクスル株式会社の主催のもと進めた内容となります。

第1部 オープニングトーク

第1部はラクスルの福島氏と日本農業の内藤氏が登壇し、産業BizDevに興味を持った理由を話しました。

福島:私はラクスルに入社してから企業単位ではなく産業単位で変革する、産業トランスフォーメーションに興味を持ちました。ラクスルは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンのもと、印刷業をターゲットにプラットフォームを提供してきたところから始まりました。現在は4つの産業領域を軸に事業展開しており、デジタル化が進んでいない伝統的な産業に対して、インターネットおよびテクノロジーを持ち込んで産業構造を変えていき、より良い世界にしていくことを目指しています。

内藤:私は実家が農家ではないですが、高校生のころに日本中を自転車で回っていたときに、農家の方においしいフルーツを食べさせてもらったことが、この業界に興味をもったきっかけです。日本農業は名前の通り日本で農業をやっている会社で、大きく2つの特徴があります。1つ目はこれまで日本の農業は国内に限った産業でしたが、我々は最初から世界で売る、世界で作ることを前提とし、日本の技術を活かしながら、グローバルにビジネスを展開します。2つ目は正面から大規模に世界に向けて、モノを作り梱包から販売までを一気通貫で行い、バリューチェーンのオペレーションを回します。まさにリアルで産業変革を正面から推進していくところに取り組んでいる会社です。

ものづくり領域における新たなポジション、“産業BizDev”とは何か?(既存BizDevとの違いとは?)

内藤:本来であれば、リアルでモノを扱うことは効率が悪いです。でもなぜ農業に取り組むかというと、リアルな部分でテクノロジーを使える部分がまだたくさんあるからです。例えば「りんごの樹形をこういう風に変える」みたいなプリミティブな方法で生産性が2〜3倍になったりします。この産業にはこういったアップサイドがたくさん眠っています。現在の日本の農業はビジネスとしてやれることがたくさんがあるので、時間はかかるかもしれないですが、そこにアプローチしている状況です。

福島:すごく分かりますね。流行のChatGPTをラクスル事業でもどのように投入するかを聞かれることがあります。しかし印刷業、農業、製造業においてまだ適応できていないテクノロジーは最新でなくてもまだある状況であり、まずはそこから取り組むことで結果的に大きな刈り取りができると感じています。

内藤:あまりかっこよくありませんが、エクセルモデルで弾いたとき、普通の手法と比べれば、圧倒的に収益性が良くなり、定量的でアップサイドな手法があることは明確です。そして日本の農業が抱えている生産性向上の課題は、アメリカやオーストラリアでさえも、たった20年ほど前に通り過ぎた世界なのです。彼らもプリミティブな農業をやっており、私は変革した様子を海外で見ているので、日本でも同じように出来るのではと考えています。さらに我々の成果というのは、リアルなビジネスですごく分かりやすいのです。例えば広大な耕作放棄地を生産性の高いりんご畑に変え、冬になればりんごが取れるようになり、まわりの人達が食べてくれて、「美味しい」と言ってもらえる。そんなリアルを経験出来ます。

ビジネスディベロップメントの定義とは?

福島氏:現在のテクノロジー産業の未来がどうなるかについては大体予想がつきます。そしてビジネスディベロップメントにおいては、誰が一番最初に実現するのか、競争の中でどのように戦えばよいのかという大きな流れが存在しています。一方で伝統的産業を変えていく場合、誰もこの20〜30年で変えられなかった、誰もビジョンを描ききれないところに対して産業の課題があると思っています。

そこで求められるのは「Shaper」です。世の中がどうあるべきなのか、未来の農業、印刷業、製造業がどうあるべきなのかを正確にシェイプできる、つまり形作れる人が求められています。それができるBizDevとは、ビジョナリーでありかつ産業をちゃんと変えていくために、高解像度でプラクティカルに物事を考え、抵抗もある中でやりきる強い意志のセットアップがきちんとできる人です。こういったスキルが備わった人が、産業BizDevとしてが産業を変えていけるのです。

日本/グローバルにおける産業構造の課題感は?

内藤:日本と海外では課題は全然異なります。日本の農業は基本的に国内のマーケットしか見ていないので、需要が国内で伸びなければ(人口が増えなければ)、供給も伸ばさなくてよい、ということで耕作放棄地が出ている状態です。しかし、世界においては世界の人口はどんどん増え、農地も足りないので、需要が爆増し、どんなに頑張ってもモノが足りない状況となっています。ここに明確な日本と海外に産業構造のギャップがあると感じています。

海外ではモノが足りない状態が続いているので、生産性を上げより効率的に作るのが大枠の方針なのです。しかし、日本はこれまで国内でしか売らない産業と定義してきたので、生産性を上げても需要が増えないから仕方がない、ということで自然と衰退産業になっていきます。一方で、アジアの購買力は伸び、日本の労働力は安くなり、日本のモノがどんどん海外へ進出するできる環境なので、量産することで海外のマーケットにおいてはチャンスがあります。日本で美味しいものを作りつつ生産性を改善し、バリューチェーンを徹底的にブラッシュアップすればチャンスが増える、というのが日本とグローバルの農業の状況です。

福島:例えば自動車産業は国内の売上が伸びない中で、海外、特にアジアで売上を伸ばしています。海外へ進出できた産業とシュリンクして市場が停滞した産業の両方があると思いますが、日本の農業が海外へ進出するためにはどのような課題があるのでしょうか??

内藤:果物の美味しさはすごく評価されているので、生産性を向上させコストを改善する必要があります。我々は各工程において徹底的にコストを下げながら、品質を維持することをやっています。基本的には海外へ行く前提である程度のロットを見込み、海外に駐在員を置きながらそこで生産したり、価格が安く品質の高いものをお客さんに届けるチャネルのコントロールまでを自社でやっています。

また、農業に関わる人はあまり農業の可能性を信じられていないところがあると思っています。私としてはリアルにビジネスとしてチャンスがあると信じているので、これまでの常識にとらわれずに良いものをそれなりの価格で作れば世界に持っていけると思って、今のアプローチを変えずに頑張って続けていきます。

“産業BizDev”の重要性/価値とは?

福島:印刷の専門家・農業の専門家・ものづくりのエキスパートでもない中で、アウトサイダーが産業に入り、煙たがられることもあったり、抵抗されることもあったりすると思います。産業を変えていくことにチャレンジする重要性や価値はどこにあるのでしょうか?

内藤:やはり農業であれば日本と海外の需要と供給の問題が生まれるとか、生産性のアップサイドがあるとか、論理的に農業のチャンスを語ることはできます。しかし、いざ、それをやるとなっても、実際にやることはとても愚直なことです。例えば、この品目をやろうと決めたら農地をとにかく集めに行くとか、生産効率を考えたりとか、生産環境を考慮したりとか、結局やることは愚直で地道で時間がかかるし課題はいっぱい出てきます。

特にこういうリアルビジネスでは、長期・短期的な課題を考慮しつつ、ロジックだけではなくエモーションも含めて人を巻き込んだり、優秀な人たちで頑張らないとうまくいきません。そういう人がいればいるほど、束になって切磋琢磨しながらやっていけます。産業を変えるためによそ者がとんでもない熱量を出した時、地域にいる人たちにも相乗効果が起こります。こういった産業BizDevのポジションは、我々のビジネスにおいてはかなり重要であり、コンセプトがうまくいくかどうかは人材にもかかっていると感じています。

福島:実際にやってみて感じたやりがいや良かったと思う瞬間はどういう時なのでしょうか?

内藤:だいたい1個良いことがあれば9個ぐらいは嫌なことです。このビジネスで本当にいいのは誰でもわかる見た目の強さみたいなところがあり、この品目でこのやり方でやる、と決めると、耕作放棄地が畑に変わり収穫して食べることが出来、自分たちのやってきた仕事を確かに感じることができます。

また地域に携わるビジネスなので、ステークホルダーは多くいです。真面目に頑張っていると助けてくれますし、仲間とうまい酒も飲めるということで、辛いことがあっても五感で報酬が受け取れます。何より重要なのはビジネスとして純粋にチャンスだと信じているので、本当に面白いビジネスになっていると思います。

~後編は「第2部 パネルディスカッション」の様子をお届けします~

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