近江牛を浮世絵に見立てた美しく斬新なパッケージデザインで、国内外ともに大きな話題となった『Art Beef Gallery』。クライアントの期待を超える尖った企画や斬新なアイデアは、どのようにして生み出されたのか。制作の裏側、カヤックのクライアントワークの極意に迫ります!
片山直也(右)
1992年生まれ、2018年入社。面白プロデュース事業部/プロデューサー
『ラーメン赤猫』にハマってます
合田ピエール陽太郎(左)
1981年生まれ、2018年入社。面白プロデュース事業部/コピーライター・プランナー
老眼始まりました
金子嵩史(中央)
1991年生まれ、2014年入社。面白プロデュース事業部/アートディレクター
家の周りにカラスが住み着いています
◆今までに無かった新体験ギフト、はじまりは駄洒落から
ーまず簡単に自己紹介をお願いします。
片山
カヤック面白プロデュース事業部のプロデューサーの片山です。社外との窓口としてクライアントから与件を聞き、プロジェクトの統括として、座組みを組んだり数字の管理をしています。案件のアイデアや方向性がズレていないかも確認しながら、きちんと着地させる仕事です。
ピエール
僕は、面白プロデュース事業部でコピーライターをしています。主にテキスト周りを担当しています。
金子
面白プロデュース事業部アートディレクターの金子です。デザイン関連をまとめています。デジタルがメインですが、今回の『Art Beef Gallery』のようなリアルなプロダクト制作など、幅広いジャンルを手がけています。
▲カヤックが手がけた新しいギフト体験、食べられる芸術作品『Art Beef Gallery』。日本三大和牛のひとつである近江牛を見て、食べて、贈って楽しめる
ー皆さんが担当した『Art Beef Gallery』は2021年6月にリリースされ、かなり話題になりましたよね。
片山
はい、100以上の媒体に取り上げてもらうことができ、記者会見は広告換算で言えば約8,000万円以上の効果が出せました。受賞関連では、PRアワードブロンズ、Pentawards(ペントアワード)ショートリストに選出されました。また、ピエールさんがコピーライティングでOCC新人賞を受賞、FCC賞ファイナリストにノミネートされました。
ーもともと、どのような形で依頼があったのですか。
片山
滋賀・近江八幡の老舗日本料理店、ひょうたんやさんから2021年の始めに連絡をいただいたんです。「コロナ禍で店舗を休業し先行きが見えない中で、ECに力を入れてオンラインでの売上を伸ばしたい」「日本三大和牛である近江牛の認知度をもっと上げたい」という内容でした。
ープロモーションとブランディングを両立する企画が求められていたんですね。依頼に対して、どのような取り組みをしましたか。
片山
ECサイトのリニューアルやWebCMなどの案が出ましたが、せっかくカヤックに依頼してもらったからには独自の提案がしたかった。各自で考えた案を持ち寄ったときに、ピエールさんがアートにまつわる案を出してきたんですよね。
ピエール
ミート(牛肉)とアート(芸術)をかけて『ミャート』。うん、駄洒落ですね。
片山
『ミャート』のネーミングには誰もしっくりこなかったんですけど、笑。 ただ、牛肉をアートに見立てて表現するというアイデアは面白いと思いました。方向性が決まったきっかけは、金子さんがつくってきたデザインカンプ。近江牛を赤富士に見立てたパッケージデザインを見て、皆が「いいね!」と盛り上がりました。
金子
皆でブレストする中で、『富嶽三十六景』の赤富士のイメージが最初にありました。やはり歴史ある和牛ですから、日本の伝統的なアートである浮世絵が合うんじゃないかと。デザインを当てはめてみたら、しっくりきました。
ピエール
あと、チームメンバーでひょうたんやさんのお肉を食べてみた時、金子くんがとびきりの笑顔で「これは食べる芸術だ!」と言っていたんです。それをすごく覚えていて、「いいこと言うな、そのままコピーにしよう」と思いました。
ーそこから、食べられる芸術作品『Art beef Gallery』をECで売ろうという挑戦が始まったのですね。
片山
ひょうたんやさんはちょうど第二創業期で、「ECのために工場をつくらないといけないくらい売り上げるアイデアが欲しい」と言われていたんです。そのソリューションとして、「まずインパクトのある目玉商品をつくり、認知度を広めましょう」と提案しました。
◆実現ハードルが高い企画を実現させるための工夫と極意
ー制作過程でこだわった点は、どのような部分でしょうか。
片山
目玉商品の制作には、パッケージを含めた「見せ方の工夫」が必要になります。ひょうたんやさんが大事にしているコンセプト、「ひとてまかけた美味しさ、ひとてまかけたおもてなし」の「ひとてま」をヒントにしました。単にECで近江牛が買えるだけでなく、届いた時の予想外の驚きや喜びまでセットにしたかったんです。ギフトとして使って欲しいという気持ちもあり、インパクトだけでなく、三大和牛としての高級感や上品さもしっかり守ることを意識しました。
ピエール
実際に滋賀県にあるひょうたんやさんを訪れ、「ひとてま」の世界観を取材し、実物の牛肉と浮世絵のマッチングを検証しました。相当な数を試しましたよね。
金子
あくまでも牛肉を主役として見せることを意識し、バランスを取りながら選定や構成をしていきました。ただ、制作過程の想像はできても、いざ実物でやってみると難しいんですよね。例えば、桜の浮世絵は小枝の部分のカットが細かくて、牛肉の湿気で紙が曲がってしまうこともありました。
ピエール
アートディレクター自ら、カッターであれこれ切り抜いて、何度も試していたのを覚えています。また、箱の選定も試行錯誤しました。牛肉が収まるちょうどいい大きさや厚み、一枚の絵画のように見えるような質感やデザインなど、考えなくてはいけないポイントが山積みで......。初めは、「本当に実現できるのか?」と感じましたが、チーム全員でひとつひとつの問題を解決し、完成に近づけていきました。箱屋さんに通いまくりましたよね。
片山
牛肉の上に切り絵を載せるためには、衛生面はもちろん、思った以上に色々なハードルがありました。箱、レーザーカット、印刷なども含め、制作プロセスは全体的にチャレンジングでしたが、検証を重ねて形にすることができました。
▲見る人を驚かせる美しい『Art beef gallery』。成功の裏には地道な努力と工夫があった
ー企画をいい形で実現させるために奔走した今回の案件を振り返ってみて、それぞれが考える、「仕事の極意」があれば教えてください。
片山
カヤックではいつも「どうしたら話題化できるか」を考えているので、今回のように突飛なアイデアがよく出てくるんです。それがちゃんとクライアントの課題解決につながっているか、カヤックとしてもチャレンジできているか、社内で目線を合わせながら提案するようにしています。ほんの少しのことで、成功するか失敗するか分かれてしまう仕事なので、1ミリでも成功確率を高めることを心がけてます。
金子
デザインに関する仕事で言えば、クオリティーはもちろん、アウトプットまで意識しています。Webでもパッケージでも、ユーザーが接するところまで責任を持つ。どうコミュニケーションしたらいいのか、どんな気持ちになって欲しいのか、しっかりハンドリングすることがデザイナーの役割だと思うんです。『Art Beef Gallery』にしても、商品の見た目をデザインするだけじゃない。絵画が届いた時と同じようなリアリティを出すため、あえてダンボール仕様の外箱を使ったり、商品説明書を美術館のキャプション風にするなど、箱を開けた時の体験まで含めて設計しました。
ピエール
僕は、仕事におけるマイルールは特に決めていません。ただ、ずっと変わらずにやっているのが、知見のありそうな人に話を聞きに行くことです。「助けてもらうこと」はすごく有効だと思っています。この案件では、広報部の社員にもチームに入ってもらいました。「Webはただリリースを出してもニュースになりにくいので、実物のプロダクトがある方がメディアに取り上げてもらいやすい」と言っていたのを思い出したんです。
片山
アドバイスをもらって、ひょうたんやさんで完成イベントと試食会を開催したんですよね。記者さんを呼び『Art Beef Gallery』のコンセプト説明をしたり、実際に食べてもらったり、インスタグラマーに撮影してもらったりして、いい起爆剤になったと思います。
◆アイデアを育てる、カヤック流「いい企画のつくり方」
ーところで、『Art Beef Gallery』は今後の企画もあるのだとか?
片山
そうですね、ちょうど2月20日の歌舞伎の日に合わせ、『歌舞伎連獅子』バージョンが発売されたばかりです。こうした浮世絵案の他にも近江牛の魅力を伝えるいい企画が残っているので、それも実現できたら嬉しいです。
▲歌舞伎の人気演目「連獅子」をモチーフに、歌舞伎役者の鮮やかな赤頭を近江牛で表現した
ピエール
浮世絵案の他にも10本くらい提案しましたよね。ひょうたんやさんから、「どの企画もいいね、やってみたい」と言っていただけました。
ーちなみに、浮世絵案の他にはどんなアイデアがあったのですか。企画プロセスについても聞かせてください。
金子
カヤックはメーカーものが得意なので、『盛り付けメーカー』の提案もしました。牛肉の盛り付けやパッケージデザインをカスタマイズできるジェネレーターです。実際にひょうたんやさんを訪れる感覚を味わえるデザインで、ユーザーに楽しんでもらえそうな内容でした。
ピエール
幻のボツ案もたくさんあります。
片山
ああ、レビューの時ノータッチでスルーされた、近江牛のミルク成分を使った『ミルク風呂』とかね。
ピエール
基本的に、僕のアイデアは駄洒落から派生したものばかりです。例えば、一年で牛の各部位を食べ尽くしてコンプリートできるサブスクリプション『ミートマニア』は、『ビートマニア』から来ています。
金子
サブスク企画は、『すき焼きセット怨念』や、『つゆしゃぶセット憎悪』といった、にく(肉)たらしい言葉の商品名が届く『Nice to Meat you・にくたらしいブランド』や、人気小説家に書いてもらった物語と、そこに登場する肉料理が文庫本のようなパッケージで届く『Nice to Meat you・肉と小説』もありましたよね。あらためてアイデアリストを見ると、「何、これ......」と戸惑うものもあります。カヤックっぽいなあ、笑。
ピエール
たしかに。肉をぶら下げて飾ると映えるんじゃないかとか、僕の理解が追いつかないアイデアもありましたね。社内中を巻き込んで、とにかく幅広くアイデアリストをつくりました。
▲コロナ禍のオンラインブレストでは、テキストベースでアイデアやイメージを出し合った
ーカヤックの企画づくりのプロセスでは、プランナーに限らず色々な人がアイデア出しをしているのですね。
金子
デザイナー、エンジニア、プロデューサーなど、職種に関係なく皆でアイデア出しするから、いい企画がつくれるのだと思います。
片山
案件と全然関係無い人まで捕まえてきてブレストするのが、カヤックの特徴です。以前、他社のクリエイティブエージェンシーの方と話した時、アイデアは思い付いたその人自身がひとりで考え抜くと聞いたのですが、カヤックではアイデアの所有権はうやむやというか......、笑。いいアイデアなら誰のものでも借りてきて、かけ合わせ、育てていくんです。自分たちだけでやっても、煮詰まりますしね。
ピエール
だから、スタッフリストが書きにくいんですよ。いわば全員がプランナーですから。
ー他には、どういった部分にカヤックらしさを感じますか。
ピエール
カヤックでは企画から制作までワンストップで案件に携わるので、細部まで徹底的にこだわれることでしょうか。例えば、他の会社さんでは企画を提案した後は制作会社さんにお任せして、上がってきたものを確認するというやり方もあります。でも、僕たちは可能な限り自分たち自身の手を動かして取り組みました。アートディレクターの金子くんも、カッターを持って切り絵していましたし。
片山
カヤックが考えた商品を売るのですから、運命共同体というか、細部にまで責任感を強く持って取り組みました。
ピエール
あと、もともとは駄洒落だったアイデアがこんな風に面白く変わるところ。フードロスにも繋がり、ソーシャルグッドな取り組みにもなったと思います。
片山
あの誰も反応しなかった『ミャート』が......、笑。アイデア・デザイン・フィジビリティプロデュースの3軸がうまく噛み合ったことで、成功につながりました。
ピエール
皆の力を借りたら昇華できる。
金子
冗談みたいな話が、ちゃんといい仕事として着地する。まさにカヤックらしい仕事だったと思います。
(取材・文 二木薫)
カヤックサイト インタビューより引用- https://www.kayac.com/news/2023/03/ArtBeefGallery
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