5年ほど前から私(社長)は「人に全振りする」と宣言して経営を進めてきました。
“属人的(化)”という言葉に違和感を感じる人もいるだろうと思う。
仕事をするうえで「平準化」「自動化」「省人化」というのは今の時代のキーワードとなっている。そのことは私も承知しているが、敢えて当社は属人化(逆張りの戦略)を推奨している。
それは、ビジョンである「八百屋を、日本一かっこよく。」を達成するために他ならないのだが、なぜ属人化がビジョンにつながるのかをお伝えしたい。
食品業界は63兆円規模。これは自動車産業と大きく変わらない一大産業。
スーパーマーケットは、なんと!23,048店舗もあると言われている。
この巨大産業の中では、業務の効率化や生産性を競い合ってきたのは当たり前のことと言える。
効率化と生産性の競争は日本の「食べる」に大いに貢献してきた。
北海道のジャガイモを九州で安く買えるのは、戦後から積み重ねてきた業界努力のたまものといえる。
競争激化の中で「標準化」や「自動化」は生産性向上の柱となり、人手不足も相まって「省人化」へと進展を続けている。
しかし、この行き過ぎた効率化は、我々のようにこの業界で「働く人」にとって、何をもたらしただろうか?
AIによる自動発注、物流に係わるDX化などテクノロジーは、「商売の本質」を削ぎ落してしまっているという側面はないだろうか?
便利さや、生産性の向上と引き換えに、「商売のおもしろさ」を置き去りにしてはいないだろうか?
私は、28歳の時に15坪の小さな八百屋を創業した。14年の時が経ち、いまや売上80億、従業員数250名という大所帯となったが、スタートは売上5万円、社員3人というスモールスタートだった。
敢えてこの時代に、八百屋で起業したのは、「商売が大好き」だったから。
『こんな時代に商店街の八百屋がうまくいくはずない。』という周りの反対を押し切り、起業した私の中には、「商売がやりたい。」「おもしろいことがやりたい。」という根源的情熱があったからに他ならない。
会社の成長とともに、食品小売業への情熱は増すばかりで、「商売のおもしろさ」を世に問いたいという欲求は、今も途切れることなく持ち続けている。
私が、商売をおもしろいと感じたのは、「自分で仕入れて、自分で売る」という商売の原点を体験してきたから。
この想い自分だけのものにとどめておけず、「仕入れ」から「販売」までの一連を社員にも体現してもらい、「商売のおもしろさ」に気付いてほしいというオモイに昇華していった。
だから、店それぞれに仕入れの権限を与え、自由に仕入れができる体制を組んでいった。
「なにを仕入れて、いくらで売るか?」という自問自答の中で、それぞれの社員が日々店に立ち、お客様を洞察し、明日の仕入へと繋げていく。
店では売れたもの売れなかったものが出てきて、改善活動が繰り返されていく。(考える現場をつくる)
当社では、このPDCAこそ「商売の原点」であり、「商売の本質」だと認識している。
だから、当社のビジョンは「八百屋を、日本一かっこよく。」であり、それを実現するために、商売の本質を削ぎ落さない属人化主義の道を進んでいる。
社員は商売を体現し、そのおもしろさを世に発信し、選考では八百屋のかっこよさを伝えていく。
「こんな時代に八百屋かよ」というこの業界へのイメージを一新していく。
かっこいいと思ってもらえるような業界へと革命を進めていく集団でありたいという願いを込めている。
ひとりひとりが、商売を体現していくことに重きを置いているからこそ、効率化や生産性よりも、我々には「かっこいいかどうか」のほうが大事であり、「仕入れが自由にできるかどうか」が大事になってくる。
だから、超属人的仕入主義を貫いているのだ。(バイヤー制による一括仕入れは採用しない)
人によって、「売上」「利益」は左右する。数字が人によってブレるというのは、経営においては大きなリスクであるが、それよりも私たちにとっては「商売のおもしろさ」の方が優先順位は高い。
ビジョンが最優位なのだ。
もちろん、企業として利益を出すことは必要条件なので、利益も出し続けていかなければならないわけだが、ありがたいことに営業利益は順調に推移している。
それは、このビジョンに共感して入社した優秀な社員たちが、今日も「かっこいい」商売を追い求めて、お客様に喜ばれる正直で誠実な商売をしてくれているからだと自負している。
効率化や生産性向上というトレンドとは真逆の戦略かもしれないが、我々はこの先も「八百屋を、日本一かっこよく。」するために、属人的な組織構築を突き進んでいくつもりだし、それが差別化戦略となって革命していくことと信じている。